自衛隊派遣と特措法

2020.02.01

今回の自衛隊の中東派遣に関して、特措法を制定すべきという意見があります。
 
今回の中東派遣の根拠は、防衛省設置法第4条第1項第18号の「所掌事務の遂行に必要な調査及び研究を行うこと」です。
 
もともと防衛庁設置法(当時)の「権限」のなかに「所掌事務の遂行に必要な調査及び研究を行うこと」と規定されていました。
 
ここでいう「調査及び研究」は、国民の権利義務に関わるものではなく、実力の行使を伴わないものと理解されています。
 
これに基づき、自衛隊は、情報収集活動を実施してきました。
 
1999年の中央省庁等改革において、各省庁の設置法には一律に権限規定を置かないことになりました。
 
しかし、自衛隊は、単なるデータ収集だけでなく、艦艇や航空機などの装備を用いた情報収集活動も行うという特性があることから、引き続きそうした情報収集活動を行うことができることを法律上明らかにしておくために、防衛庁設置法(当時)の所掌事務規定に「所掌事務の遂行に必要な調査及び研究を行うこと」を新たに規定しました。
 
今回の自衛隊の中東地域における情報収集活動は、国民の権利義務に関わることはなく、また、実力の行使を伴うものではありません。
 
ですから今回の情報収集のための自衛隊の中東派遣も、新たに特措法を設ける必要はなく、防衛省設置法第4条第1項第18号の「所掌事務の遂行に必要な調査及び研究を行うこと」に基づき、実施されます。
 
ちなみに、自衛隊の訓練や演習も、同じように防衛省設置法第4条第1項第9号の「所掌事務の遂行に必要な教育訓練に関すること」により、実施しています。
 
これまでは特措法を制定して自衛隊を海外に派遣していたではないかという声があります。
 
まず、旧テロ特措法と旧イラク特措法があります。
 
この二つの特措法には理由が二つありました。
 
一、諸外国の軍隊への補給等の支援を実施するため、自衛隊に対し、物品や役務の提供などの権能を付与する必要がありました。
 
二、危険性の高い地域において活動するにあたり、自衛官が自己及び自己と共に関係する活動を実施する者の安全を確保することができるように武器使用権限を新たに付与する(自己保存のための武器の使用)必要がありました。
 
この後、平和安全法制のなかで一般法として国際平和支援法が制定されたため、以後、こうした関係での特措法は必要なくなりました。
 
もう一つ、海賊対処行動にあたり、海賊対処法を制定したということがあります。
 
海賊対処法制定までは、自衛隊は日本関係船舶に対する海賊行為しか取り締まれませんでした。
 
しかし、国連海洋法条約では、公海上の海賊行為については、旗国主義の例外として、いずれの国も管轄権を行使できることになっています。
 
そのためこれを前提とした取り締まり権限を自衛隊に与えるために海賊対処法が制定されました。
 
しかし、海賊行為以外の船による侵害行為に関しては、領海では主権を持つ沿岸国が管轄権を持ち、公海上では国際法により旗国が管轄権を持つことになります。
 
日本が国内法たる特措法を制定しても、国際法を上書きすることはできませんから、公海上ではやはり旗国主義の考えに基づいて対処することが必要です。
 
こうしたことから、今回の自衛隊の中東派遣に関して、特措法の制定は必要がありません。
 



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