官邸の総理番
2022.04.04
首相官邸の正面玄関に、閣僚や議員が足を踏み入れると、奥の方からわらわらと記者が出てきます。
官邸の総理番です。
彼らの興味はただ一つ、「総理との面会ということでよろしかったですか」。
そして帰りにも「総理と面会されましたか」。
翌日の総理動静を書くために、総理と会ったかどうかを確認するのが彼らの仕事です。
しかし、私は基本的にそれに答えず無言です。
国家公安委員長や外務大臣、防衛大臣は、有事の時に官邸に報告のために飛び込みます。
もちろんその内容を漏らすわけにはいきません。
ところがふだんなにかコメントをしてくれる人が、その時に限って無言だと、その無言が何かあったことを物語ってしまいます。
だから私は閣僚時代、ずっと官邸の出入りは無言を通してきました。
事情をわからない総理番の記者は、「河野太郎は冷たい」と上に報告し、顔なじみの官邸キャップから、たまには若い記者達を飯に連れて行って無言の理由を直接説明してやって下さいと頼まれたりしました。
官邸の総理番は、入社して何年も経たない若い記者が務めていることが多く、彼らは短期間で異動していきます。
夕食をごちそうして、こういうわけで無言を通すけれど、悪く思わないでね、ああ、そういうことだったんですねという会話をしても、すぐに新しい記者に交代してしまいます。
きりがないのでやめました。
そもそも、官邸に入れるのは正面だけではありません。
総理に会っていないのに面会していたことになっていたり、わからないように報告に行ったりということも、何度もありました。
そんなものです。
不思議なのは、各社に総理番がいて、そのみんなが正面玄関に走ってきて、「総理と面会ですか」。
共同通信や時事通信がいるわけですから、総理の動静は通信社からもらえばよいのではないでしょうか。
そこに特ダネがあるとも思えません。
新聞もテレビも、インターネットの影響で、売上に影響が出ているはずです。
なんで、自社の記者にそんなことをやらせているのでしょうか。
これまでそうやっていたからというだけのことではないでしょうか。
人口が減っている日本で、若手の戦力をそんな無駄なことに費やしているのは、もったいないのではないでしょうか。
4月に入って、顔なじみの記者達が、異動になりましたと挨拶に来てくれましたが、上司とけんかして飛ばされましたというのが何人もいました。
しかも、みんな口を揃えて、「河野さんの影響で」。
おいおい。
見ていると、日本の記者は、ある一定の年齢になると記事を書かなくなります。
デスクと称して内勤になり、やがて経営に入っていきます。
せっかく経験を積んで、いろいろなことを理解して記事を書けるようになったのに、記事を書かないなんて、もったいない。
他方、最前線で記事を書いている記者はいつも経験が足りず、役所の大本営発表をなぞっているだけ。
ホワイトハウスには、大統領を取材して何十年というベテラン記者がこれまでもいました。
国務省や国防省を長年取材し続けて、豊富な人脈を築いている記者や小さな新聞社からスタートして、才能を認められて転職を繰り返し、ニューヨークタイムズやウォールストリートジャーナルに記事を書くようになった記者を知っています。
日本にも、ローテーションする官僚よりもこの問題には詳しいぞという記者がたくさん出てくるようになったら、報道も変わるような気がします。