シリア難民問題

2014.05.03

カナダ人が全員、国境を越えてアメリカになだれ込んできたらどうなるだろうか。

ヨルダンに今、起きているのはこれに匹敵する事態だ。

人口600万人のヨルダンに、内戦のシリアから60万人が国境を越えて逃げてきた。

3000万人のカナダ人が3億人のアメリカ人が住むアメリカに移ってきたのと比率的には等しい。

さらにヨルダンにはそれまでに経済的な理由で70万人のシリア人が国境を越えて移り住んできていたので、合計すると130万人のシリア人をヨルダンは受け入れていることになる。人口の実に2割だ。

そもそもヨルダンにはイスラエルに土地を奪われたパレスチナ難民が大量に流れ込んだ。

さらにレバノンの内戦から逃れたレバノン人、そして湾岸戦争でイラクから逃げ出したイラク人もヨルダンに逃れ、ヨルダン人がヨルダンの中ではマイノリティというような状況だ。

ヨルダンにとってシリア難民が深刻なのは、60万人の難民のうち、難民キャンプに住んでいるのはわずかに10万人に過ぎず、シリア難民の大多数は、家族や親族、友人や知り合いなどあらゆるつてをたどって、アンマンをはじめ、ヨルダン国内のあらゆるところに住んでいることだ。

キャンプではなく街中に住んだ数十万人のシリア難民は、安い賃金で職を探し始める。ヨルダンで不法就労している30万人近いエジプト人が、シリア難民のおかげで職を失うほどだから、失業率が20%とも30%ともいわれる中で仕事を探しているヨルダン人にとっては死活問題だ。

さらにこの数十万人の街中に住む難民が住むところも探すので、家賃は高騰する。貧しいヨルダン人にとっては賃金が下がり、家賃が高騰する。まさに踏んだり蹴ったりだ。

大人だけではない。一年間に10万人ちかく増えたシリア難民の子供を受け入れるために、ヨルダンの学校は、以前のように朝と夕方の二部制に戻さなければならなくなった。

ヨルダンでは常に不足気味な水とエネルギーも完全に足りなくなった。
恒常的な財政赤字の続くヨルダンでは、ヌスール首相のリーダーシップの下、電力料金に対する補助金を段階的に廃止しようとしている。その矢先での難民問題の勃発だ。

450万人のシリア国内の避難民と250万人にのぼるシリア国外に出た難民、合計約700万人に対する食糧支援をWFPが国際的なNGOと連携して行っているが、そのために毎週40億円の予算を必要とする。

WFP(World Food Programme)の年間7000億円の予算の内、2000億円がシリア難民支援関係に使われている。

WFPの難民支援では、WHOの定めた基準である1日2100Kcalを摂取できるように、ヨルダン国内では一人1か月24ヨルダンディナール、約34ドルが配られる。

日本は、2013年度の補正予算で15億円を拠出したが、これで3日分の食料が確保できることになる。

これまでシリア難民の支援に圧倒的な予算を出してきたのがアメリカで、EU、イギリス、ドイツ、クウェートと続く。そしてカナダ、デンマーク、フランス、日本等。

アラブ諸国ではクウェートの他に、UAEが拠出しているが、その他はほとんどない。

サウジアラビアは資金は提供せず、デーツ(ナツメヤシ)だけを提供している。ザアタリキャンプでは、2週間分の配給切符をもらいにいくと、出口で「サウジアラビアからのデーツ」と書かれたパッケージ入りのデーツがもらえる。

しかし、各国からの任意拠出金に頼っているWFPのシリア難民支援予算は、今のままでは5月末に尽きる。

食糧の支援が受けられなければ10万人にのぼるキャンプ内の難民は食べていくことが非常に困難になる。

WFPをはじめ国際機関のスタッフは、真剣に暴動の心配をしている。

WFPの支援は、当初、難民に対して食糧を現物で支給することから始まった。しかし、画一的に同じ食料を配る現物支給はあまり人間的ではないということで、紙の配給切符による食糧支援に順次切り替えられた。

WFPは、シリア難民の多くは経済的にも恵まれた中間層で彼らの尊厳を尊重しようとしている。

キャンプ内の難民はキャンプ内のWFP公認の商店やスーパーマーケットで、2週間ごとに配布される配給切を使って買い物をすることができる。

キャンプの外に住んでいる難民は、同じように配給切符で、ヨルダン国内に67か所ある連携商店で買い物をすることができる。

WFPは、難民に対して2週間ごとに配給切符を配るコストを削減するために、2014年5月1日からマスターカードのデビットカードを使った方法に切り替え始めた。

すべての難民に対して銀行口座が開設され、2週間ごとにその講座にそれぞれ資金が送金される。難民がキャンプ内の公認の商店や街中の連携商店でカードを使って買い物をすると口座から資金が引き落とされるしくみだ。

これによって、難民は2週間ごとに配給切符を取りに行かなくても済むようになり、WFPは配給切符の印刷や配布のコストを削減することができる。

ヨルダン国内に逃げてきたシリア難民は、食料をはじめとする支援を受けるため、UNHCRによりデータベースに登録される。このときUNHCRは目の虹彩を使った登録を進めている。指紋よりも確実に個人を識別することができるという。

そしていずれ、デビットカードから目の虹彩に配給方式も切り替えるという。WFPはキャンプ内外の公認された商店に虹彩読み取り機を設置し、難民が買い物をする時にそれぞれ目の虹彩を確認すれば、自分の口座から金が引き落とされるという。

現在、ヨルダンに居るシリア難民の多くはシリア南部デイラ周辺からの難民が多い。

シリアから逃げてきた難民は、もし親せきや知り合いがいなければ、国境から約12キロ離れたザアタリキャンプに収容される。
このキャンプでWFPは、毎朝、シリア人の主食であるパンの配給をしている。

その量は莫大で、毎朝シリア難民に配給するパン(アラブ流の丸い平べったいパン)を縦に積むと、高さ1650mになるという。

毎朝、1人1日240g、4枚のパンが配給される。

夜中から焼き始められたパンは、毎朝6時半からトラック何十台でキャンプに運び込まれ、配給切符を握りしめて男女別の列に並んだ難民がパンを受け取っていく。パンの配給は9時半には終わる。

シリア人は主食であるパンの味にうるさく、配給されるパンの味が落ちるとキャンプ内で暴動が起きかねないと真顔でWFPのスタッフは語る。

ヨルダンのパンはシリアのパンと比べて若干小さく、最初はそのサイズでキャンプ内に不満が出たという。パンのサイズを調整すると、今度はパンの味に不満が出た。

キャンプ内の難民の代表者をパンを焼く工場にまで連れて行った結果、パンを焼くまでは問題がないが、その後、パンを運ぶ容器が密閉性が高く、パンの焼きが進んでしまうことがわかり、容器を風通しの良いバスケットに変えた。

視察している我々にも、難民から口々にパンの量が足りないとの苦情が寄せられたほどだった。

ザアタリキャンプ内のシリア難民の多数は、もともとビジネスをしていたものも少なくない。

キャンプ内の大通りの両側には、コンテナを改造した非公認の商店(配給切符で買い物ができない)が立ち並び、大通りはシャンゼリゼと呼ばれるようになった。シャンゼリゼに面した商店の売買もキャンプ内で行われているそうだ。

今やキャンプ内には600にのぼる非公式の商店が立ち並び、ひと月の経済活動は約8億円と推定されている。

さまざまな商品は、キャンプ外のヨルダン人と提携して運び込まれ、キャンプ内ではシリアリラ(シリアポンド)で売買される。シリアリラ(シリアポンド)とヨルダンディナールの両替商もそこここにあり、為替相場は毎日変動するという。

WFPのスタッフによれば、売春宿も3か所あるが、未成年者がかかわっていないこと、強制的に行われていないことが確認できているので国際機関は関知していないそうだ。

アルコールの問題は少ないが、ドラッグが流入していることが確認されており、この対策にはヨルダン政府も頭を悩ましている。

そして人口10万人のこのキャンプには、少なくとも900人のヨルダンの警察あるいは情報機関の私服が難民を装って入っているという。

最初は入居した順番に住居があてがわれていたが、やがて同じ部族、親族で集まるようになり、12のコミュニティがキャンプ内につくられ、自治組織がそれぞれに立ち上がっている。

キャンプ内はまさに、市場経済と自治の実験場になっている。

これまで寛大にシリアからの難民を受け入れてきたアブドゥラ国王も、もはやヨルダンは限界に達したと国境を閉鎖した。その結果、国境のシリア側に難民が集まり始めている。

当初は短期で戻れるだろうと思っていたシリア難民も、帰国できるようになるには数年間はかかると思うようになっている。

ヨルダン政府は、シリアの内戦が終わっても、すぐには難民は帰還しないと予測して対策を立てなければならないと感じている。

ヨルダンの多大な犠牲のおかげで、シリアの難民に関しては最悪の事態を避けられているが、このままではヨルダン経済、ヨルダンの社会がもたなくなってくる。

湾岸をはじめ、国際的な支援の拡大が必要だ。

なにかというとインフラ整備に予算をつけてきた日本のODAだが、本当にそれでよいのか自問しなければならない。インフラ投資は民間に移行し始め、むしろ、目の前の命を救うことにODAを使うべきではないか。

WFPは、キャンプ内ではSave the Childrenと連携し、キャンプ外ではIsramic Reliefと連携している。どちらのNGOも経験豊かな専門家を擁し、最新鋭の技術を駆使して難民支援に当たっている。

日本のJENもザアタリキャンプで活動をしている。

JICA一辺倒のODAではなく、もっとNGOを活用し、育成していくことが必要だ。



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