おすすめの一冊「The Man Who Never Was」
2023.08.05
「The Man Who Never Was」 by Ewen Montagu
変なタイトルですが、第二次大戦中の奇想天外な諜報活動で、最近の映画にもなった「ミンスミート作戦」の責任者が書いた舞台裏です。
ヒトラーがヨーロッパを席巻するなかで、ようやく連合軍は「トーチ作戦」で北アフリカを奪回しました。
連合軍のその次の一手としては、誰が見ても北アフリカからシシリア島への上陸ですが、当然、ドイツ軍もそれに備えており、力ずくで上陸を試みれば連合軍側に莫大な損害が生じます。
そこで、シシリアと見せかけて、実は連合軍はギリシャとサルディニア島への上陸を準備しているという偽情報をドイツ側に流そうというのが「ミンスミート作戦」です。
そのために、機密情報を託されたイギリス士官が飛行機の墜落で溺死し、中立国(でもドイツ寄り)のスペインの海岸に機密文書と一緒に遺体が流れ着くという状況をつくる工作が「ミンスミート作戦」です。
溺死で通る死体を確保し、ギリシャとサルディニア島への上陸作戦を匂わせるような、しかもわざとらしくない手紙をつくり、それが自然にスペイン官憲を経てドイツ軍に渡るようにするにはどうしたらよいか、その内幕を責任者本人が書いています。
この作戦については、極秘とされてましたが、この作戦に関する小説が出版されることになって慌てたイギリス政府が、責任者に公式な出版物を書かせたもののようです。
177ページとお手軽に読める分量ですが、英語は苦手という方のためには、ベン・マッキンタイアーというスパイもののノンフィクションを得意とする作家が書いた「ナチを欺いた死体」(中公文庫)が邦訳されています。
こちらはモンタギューの本に、さまざまな調査、取材を加えた500ページ以上の大作です。
夏の夜の読書に。