7月31日の時限爆弾

2008.04.04

七月三十一日に向けて時限爆弾が刻々と時を刻んでいる。

厚生労働省は、生後二十ヶ月以下の牛のBSE検査に関して、自治体への検査費用の補助を七月末で打ち切る。

しかし、自治体からは補助の継続を望む声が強い。

食の安全がクローズアップされ、また一方で食品の価格引き上げが続く中で、食の安全に関する科学的、合理的な決断が求められている。そして、その決定を消費者にわかりやすく、きちんと説明する必要がある。

結論から言うと、二十ヶ月以下の牛のBSE検査は科学的には意味がない。やってもやらなくてもリスクは変わらない。が、それをやるために税金が投入されている。だから、やめるべきだ。
七月末は、いい機会だ。

二十ヶ月以下の牛のBSE検査にかかる費用でマッサージ機が何台も買える。同じ税金で、片やマッサージ機を買うと非難されるのにそれが何台も買えるだけのお金で無意味なことが続いても、誰もそのことについて触れない。

7月末で、二十ヶ月以下の牛のBSE検査をやめるべきことをきちんと説明し、やめることができるかどうかで、日本の消費者行政が評価されると言っても言いすぎではない。

(BSEパニックの時に、パニックを鎮める意味で全頭検査を導入したのは間違ってはいなかったかもしれない。問題は、それをきちんと方向転換してやめられるかどうかだ。
グリーンピアだって、もともと年金の積立金が貯まり続けていたからそれを還元しようということで始められた。それは間違っていなかった。問題は、それを止めるべき時に止められなかったことにある。同じまちがいを繰り返してはいけない。)

BSEEの原因となるプリオンがもし子牛のえさに含まれていると、子牛の腸のパイエル小板とよばれる部分からプリオンが牛の体内に取り入れられる。
子牛のパイエル小板は、抗体を作るために、生後すぐから十二ヶ月ぐらいまでは比較的プリオンのような大きなタンパク質も取り入れやすくなっている。

パイエル小板で取り入れられたプリオンは、その後、子牛の体内に蓄積されるが、脊髄の閂部と呼ばれるところがもっとも濃度が濃くなる。ここを検査して、BSEプリオンが牛の体内に存在するかどうかを確認している。

問題は、閂部を検査しても、おおよそ三十ヶ月までは、プリオンが検出できない。濃度が薄く、検出限界に達しないのだ。

月齢三十ヶ月以下の牛からプリオンが検出されたのは、これまで世界でたった四件。
ドイツで28、29ヶ月の牛から、日本で21、23ヶ月の牛からそれぞれ検出されたことがある。

日本で21、23ヶ月の牛から検出されたBSEプリオンは、その濃度がほかのBSE牛のプリオンと比べ、500分の一から1000分の一しかない。現在の一次検査、二次検査の検出限界ぎりぎりだ。

(ちなみに、この二頭の牛からとれたプリオンを、マウスに感染させる実験ではマウスへの感染が確認できていない。)

食品安全委員会は、二十ヶ月以下の牛を検査しても、プリオンが検出できないので、意味がないから二十ヶ月以下の牛の検査はやめるべきだと結論を出している。

牛にも個体差があり、二十ヶ月以下でも検査で検出できるだけの量のプリオンを蓄積する牛が発生する確率は、十六年から八十年に一頭ということになる。

だったら二十ヶ月以下の牛の検査を続ければ、十六年から八十年に一頭の陽性の牛をはねることができるではないかという人がいるかもしれないが、BSEプリオンは、その99.46%までが特定危険部位と呼ばれる部位に蓄積される。ちょうど、ふぐの毒が決まった場所にしかたまらないのと同じように。
その特定危険部位を除けば、プリオンは取り除かれるので、人体に危険はない。
牛の個体検査は、BSEプリオンを持っている牛を最初から除くことで、安全性をさらに高めようということに過ぎない。

検査をしていないが特定危険部位を除いた牛と検査して陰性だが特定危険部位を除いていない牛を比べると、検査していないが特定危険部位を取り除いた牛の方が遙かに安全だ。

BSE対策で、より重要なのは、検査ではなく、特定危険部位の除去なのだ。
仮に16年から80年に一頭の割合で、二十ヶ月以下でも検出限界以上のプリオンが閂部に溜まっている牛がいたとしても、特定危険部位が取り除かれていれば、安全だ。

だから二十ヶ月以下の牛の検査をやめれば、16年から80年に一頭の陽性の牛が検査ではねられない可能性があるが、その牛のプリオンも99.46%は除去されるということになる。
(99.46%というのは、老齢の牛からプリオンが見つかったときに特定危険部位以外のところから0.5%のプリオンが見つかったからで、若い牛の場合は特定危険部位をのぞくことで、ほぼ全てのプリオンが除去されることになる。)

じつは日本では、屠殺するときに、ピッシングを行っている自治体がある。ピッシング(pithing)とは、屠殺するときに牛が暴れないように、まずスタンガンで失神させた牛の脊髄を長いワイヤを脊柱に差し込むことで破壊する作業だ。
牛は心臓が動いている間に体内の血を放血させなければならないので、殺さずに失神させた状態で解体作業を始める。
失神していても、牛は脊髄反射で足を動かしたりするので、作業員の安全を確保するために、脊髄を壊し、反射を防ぐためにピッシングが行われている。
しかし、牛の脳は特定危険部位であり、ピッシングするときに脳が破壊されBSEプリオンが飛び散ったり、血流に混ざったりして、肉が汚染される可能性がある。

OIE(国際獣疫事務局)も、牛肉を輸入するときに要求すべき事項として「ピッシングが行われていないこと」があげられている。

自治体によってはピッシングをしながら、全頭検査を続けるところもあるが、二十ヶ月以下の牛の検査をやめ、一刻も早くピッシングをしなくてすむように施設を改造するべきだ。

ピッシングをやめるために、牛に電流を流すことによって脊髄反射をとめる装置を導入する必要がある。
その装置が数百万円ということを考えれば、不必要な検査をやめて節約した費用でその装置を導入し、ピッシングをやめることができるところもあるかもしれない。

食品に関するリスクを分析するのは政治家の仕事ではない。
食品のリスクを科学的、専門的に分析するために食品安全委員会が作られた。そして、そこが結論を出したなら、それをわかりやすく消費者に伝えるのは行政と同時に政治家の仕事だ。
そして、それはマスコミの仕事でもある。

全頭検査をやれというのは言いやすい。でも、全頭検査をやめようというのは言いにくい。でも、それが科学的に無意味であり、税金が投入されている以上、やめるのが正しい結論だし、それならば、そう声を上げるのが政治家の仕事だと思う。

だから、二十ヶ月以下の牛のBSE検査はやめよう!

政治家は、きちんとリスクコミュニケーションをするべきだし、消費者もきちんとリスクを理解して、合理的な行動をとるようになる必要がある。

それが食品価格を不必要に上げないことになるし、安全な食品が流通することにもつながるのだと思う。



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