議長の怒り
2006.12.01
衆議院議長から各党に対し、本会議の出席率が悪い、本会議での態度が悪いとのお叱りが。
そういえば、新人議員が、最近議長が議長席から議場を見渡して、空席になっているところを議員便覧を片手にチェックしているという話を聞いた。前のほうの席だと議長が議長席で何しているかよく見えるのだそうだ。
年輩の議員は、さすが河野議長だなどと感心している。
ぼくは、...ため息をつく。
衆議院議員のなかで、たぶん僕が一番議長とのつきあいが長い。麻生太郎外務大臣よりも鈴木恒夫代議士よりも昔から議長を知っている。
河野洋平・河野太郎共著の「決断」(河野洋平の肝炎発病から移植までをそれぞれの側から書いた本であり、沢木耕太郎氏は第二部の河野太郎が書いたところが特にすばらしいとコメントしている)にも書いたが、河野洋平という人には昔、よく殴られた。
寿司屋で小皿に醤油を残したといっては家に帰ってから殴られ、海苔をばりばり食っただけで寒い海で海苔を作っている人のことを考えろとぶん殴られた。
つまり、本会議の出席率が低かったり、本会議場の態度が悪いのはたしかにけしからんことだが、なぜそうなってしまうのかといえば本会議なんか別に関係ないからである。
つまり、今の衆議院本会議なんてどこかの独裁政権下の国会とまるで同じで、発言はお互いに原稿を読み上げるだけ、発言者はあらかじめ決まっていて、手を挙げたって絶対に指名されることはない。全ての発言者が黙々と原稿を読み上げるのだ。
しかも、自民党の場合、よっぽどのことがない限り、本会議での発言はできない。僕は去年、当選九年目にして初めて本会議で5分の質問をやった。僕の同期でまだ本会議で発言していない議員も少なくない。
しかも本会議での発言の多くは質問であり、あるいはただ言いっぱなしで論戦にならない討論(つまり各党がアリバイを議事録に残すためにやるもの)なのだ。
この間の教育基本法の採決でもわかるとおり、一番多い起立採決では、個々の議員が賛成したか反対したかも記録に残らないのだ。
記名投票なんか年に数回しかないし。(中国の全人代の議員から、日本ももう少し民主的に国会運営をやったらどうかといわれたことがある!)
つまり、本会議への出席や本会議での態度を改めましょうというのは、議長がそういいたい気持ちは良くわかるし、そうすべきであることは間違いないの だが、そんな表面的なことで文句を言うのではなく、本会議が民主国家の国権の最高機関の本会議らしいきちんと議論が行われ、投票が記録されるもの、つまり 本来あるべき本会議にするのが、衆議院議長としての仕事なのだ。
それをやらずに表面的に怒っていても、ほとんど意味はない。
寿司屋で小皿に醤油を残すなと殴られた子どもがどんな大人になるかといえば、小皿の醤油が早くなくなるように、どんなネタでもかならずシャリのほうを醤油につける大人になるだけなのだ。