自民党アート振興小委員会提言
2026.05.28
アート振興小委員会提言
令和8年5月27日
自由民主党政務調査会 文化立国調査会
アート振興小委員会
日本のさまざまな美と創造性が世界から賞賛されている一方、国際的なアート市場での日本人作家、収集家、画廊、あるいはフェアの存在感が薄いのが現実である。これは、アートに関するさまざまな制度的な整備が足りないことに起因している。
アートの価値は単体の作品によって形成されるものではなく、作家、批評家、展示空間、収集家などのコミュニティが有機的に連関し、連続的な文化の蓄積となって価値が結晶化される。そのため、アートの振興には複合的で継続的な政策が必要である。
我が国に蓄積されてきた古代から現代までの質の高いアートの蓄積をさらに深めながら、日本におけるアートの創造を振興し、アート界における日本の国際的な立場を高め、発信力を強めると同時に、これまでアジアにおけるアート市場のハブ的な役割を果たしてきた香港の立場が流動化するにあたり、日本国内におけるアートの資産としての位置づけを確立し、国際的なアート市場における日本のプレゼンスを大きくすることも目指すべきである。
日本国内に蓄積されてきた質の高いコレクションが相続や円安などが理由で散逸したり、国外流出することを防ぐために喫緊の対応が求められており、また、アジアにおけるアート市場のハブとしてのポスト香港の地位を狙ってアジア各国が競っている中で、我が国も将来を見据えた思い切った施策を打つことが必要だという認識のもと、日本とアートコミュニティが少なくともアジアでリードするようになることを目指して、自民党アート振興小委員会として、以下の提言を行う。
一、重要な美術品の散逸・国外流出防止と収集強化
国宝・重要文化財級の美術品や、日本国内に所在する海外由来の重要美術品について、コレクションの散逸や国外流出を防止する制度を整備する。現在、重要文化財や登録有形文化財については、相続税の納税猶予や物納を認める制度が措置されているが、国内の重要な美術品コレクションが相続等を契機に散逸及び流出することを防ぐため、重要な美術品やコレクションについて、納税猶予や物納の特例の対象となる登録有形文化財や登録美術品への登録を推進するとともにさらなる措置を講じるべきである。また、必要に応じて市場での買い支えを行う基金を設立する。
また、相続税の納税猶予に関連して、美術館等へ寄託する際の寄託契約の標準化を進め、寄託者名の表示、展示期間の明確化等についてルール化する。
すでに海外へ流出してしまった日本の美術品については、可能な限り目録を整備し、市場に再び現れた際に買い戻しを行うための基金を創設する。この基金への企業・個人からの拠出については、公益信託等の制度を活用し、寄付金控除の対象とすることで民間資金の活用を促進する。
企業による美術品保有については、長期的な文化資産保全の観点から制度整備を進める。株式会社が保有する美術品を財団法人等へ円滑に移管できる制度を創設するとともに、アクティビスト株主等の圧力によって、企業保有の重要美術品が国外流出または散逸することを防ぐ施策を講じる。
国宝・重要文化財級の美術品について、文化財保護と市場活性化を両立する措置を講じる。
災害発生時などでの万が一に備える意味でも、日本国内の美術品のデジタルアーカイブ化を進める。
AIが日常的に使われるようになった時代のなかでも変わらない美術の価値、我が国が積み上げてきた文化を大切にしていく。
二、アート分野を支える美術館と人材の支援
国公立美術館については、収蔵方針の透明化と戦略的運営を進める。各館は収蔵品の評価を行い、重要作品が市場に出た際には迅速に取得できるよう、購入資金の積立を行う。また、そのような運営改善を行った美術館が収蔵庫を拡充する場合には、優遇措置を講じる。さらに、国公立美術館が保有する作品について、安全性が確保される場合には、民間美術館、画廊、企業等からの展示協力要請に応じることを原則化し、美術品の活用機会を拡大する。さらに、美術館の夜間開館については、地域の参画、協力も得ながら検討を進める。
アカデミアによる研究は、美術品を美術史に位置づける役割があり、こうした美術分野を支える専門人材の育成も急務である。美術関連人材育成プログラムを整備するとともに、高等教育機関によるアートマネジメントや修復、鑑定等に関するカリキュラム設置を支援する。さらに、美術館キュレーターの育成プログラムや、美術品修復のための共同センターを設立する。海外の美術館等で、日本美術をアジア美術の中に埋もれさせないためにも、海外における日本美術の研究者・キュレーターの育成を促進する。
三、アート市場の活性化
日本の美術市場の活性化のための政策立案や民間投資の基礎資料とするため、日本国内の美術品市場に関する統計基盤を整備し、市場規模や流通実態を可視化するとともに、信頼性ある鑑定・評価制度を確立し、税務上の不確実性の低減を図る。私財としての鑑賞対象にとどまり、美術的、社会的、経済的な価値を持つ資産として広く認知されるに至っていない個人や企業の保有する美術品の活用が図られるよう、民間及び関係省庁等が連携し、個人や企業の所有する美術品の登録や鑑定評価に関する制度を検討する。
美術品の通関・保税制度の抜本的な見直しを進め、香港等の主要市場並みに通関・保税手続きを簡素化し、デジタル化を徹底することで、国際的な美術品取引の利便性を高める。また、保税制度全般についても、他のアジア諸国と比較して遜色のない制度整備を進める。
減価償却対象となる美術品価格の上限引き上げなど、美術市場活性化のための抜本的見直しを行う。また、一般公開を条件に企業保有美術品の評価ルールを見直す制度も検討する。
四、日本発アートの魅力発信強化
日本文化の発信を強め、日本のアート市場を活性化し、観光における体験価値にもつなげ、最終的には経済の活性化の要素の一つにしていくために、アートウィーク東京をはじめとする国内の芸術祭やアートフェアなどアート関連の行事を、国立新美術館をはじめとする国立美術館等とも連携しながら、世界のアートカレンダーの中に位置づける。また、アートバーゼルやフリーズに匹敵するような日本発のアートフェアの立ち上げに挑戦する。
在外公館を日本文化発信の拠点として位置づけ、質の高い日本人アーティストの作品展示を促進するなど、積極的に活用する。在外公館等で、寄贈だけでなく一定期間の貸与も積極的に活用することで、多様な作品展示を可能とする。大使をはじめ我が国の外交官も、日本のアートを世界に向けて発信するための先頭に立つべきである。
五、文化行政の実効性の強化
文化行政の実効性を高める観点から、文化庁予算の執行状況と定員を総点検する。特に、予算配分がどのような方針と基準に基づいて行われたかを検証するとともに、事務経費ではなく、実際にアーティスト支援へ十分に充てられているかを確認する必要がある。また、公的支援を受けたアーティストがその後どのような活動や成果を上げたかについても追跡調査を行い、政策効果の検証につなげる。
以上の施策を同時に進行させることにより、日本のアートの創造、展示、流通、保有が進み、アート市場に厚みが出てくる。アートを文化のみならず、観光や都市開発など経済の側面からも推進し、アジアのアート界をリードする日本を目指す。









