ワクチンの効果と厚労省のデータの謎

2022.06.06

日本で接種されているコロナワクチンが、オミクロン株に関しても、デルタ株に対するよりも劣るものの、効果があるということは科学的に認められています。

オミクロン株に対する重症化予防(入院予防効果)に関しては、イギリスの健康安全保障庁(UKHSA)の報告があります。
(2022年4月21日更新)

モデルナ社ワクチン又はファイザー社ワクチンの3回目の接種後105日以降の重症化予防効果は以下の通り。
18-64歳
急性呼吸器疾患による入院に対して 67.4%
酸素投与、気管挿管、ICUを伴う入院に対して 75.9%

65歳以上
急性呼吸器疾患による入院に対して 85.3%%
酸素投与、気管挿管、ICUを伴う入院に対して 86.8%

3回目までのワクチン接種には特に重症化予防には効果があり、アレルギーなどで接種できない人を除き、接種すべきです。

他方、感染予防、発症予防については、デルタ株に比べて、オミクロン株では有効性が下がり、また、時間と共に有効性が低下します。

まず感染予防効果については、「Nature Medicine」に掲載されたアメリカの研究データがあります。

オミクロン株に対するモデルナ社のワクチン感染予防効果は、以下の通り。
2回目接種後
14-90日経過後 44.0%
91-180日経過後 23.5%
181-270日経過後 13.8%
271日経過後 5.9%

3回目接種後
14-60日経過後 71.6%
61日経過後 47.4%

3回目接種後、感染予防効果は上昇しますが、時間の経過と共に低下していきます。

オミクロン株に対するモデルナ社のワクチン3回目接種の感染予防効果はデルタ株に対する効果よりも低い結果となりました。

発症予防効果に関してはイギリス健康安全保障庁(UKHSA)の報告があります。(2022年4月21日更新)

ファイザー社又はモデルナ社のワクチンの発症予防効果は以下の通り。
2回目接種後
2-4週後は65-70%
その後低下し、25週までに約15%

ファイザー社ワクチンの3回目接種後の発症予防効果は
2-4週後は60-75%
その後低下し、20週以降はほぼ効果なし

オミクロン株に対する発症予防効果はデルタ株に対するよりも低くなり、若年者で高齢者よりも若干高くなりました。

今後、この秋の承認申請に向けて開発が進むオミクロン株対応のワクチンが承認された場合に、接種対象者をどうするのか、専門家の議論が必要です。

ワクチンの重症化予防効果は明確で、かなり長続きする反面、感染予防、発症予防効果は、時間と共に低下することが報告されています。

しかし、厚労省が出しているデータには謎の部分があります。

コロナウイルスに感染した人をHER-SYSと呼ばれるシステムに入力する時に、ワクチン接種歴を入力する画面があります。

ワンチン接種歴が


不明
という三つの選択肢がありますが、この欄が未記入となっているデータもあります。

未記入の場合、感染研では、接種歴不明に加えていましたが、厚労省は、未記入の場合、未接種に分類していました。

当初、国内ではワクチン接種が行われていなかったため、未記入のデータを未接種に分類することに問題はありませんでしたが、ワクチン接種が始まると、未記入の中にも接種歴のある人が出てきます。

ワクチン接種が進むにつれ、接種歴のある人が未記入の中にどんどん増えていきます。

アドバイザリーボードに提出された資料が、感染研の分類ではなく厚労省の分類になっていたため、処理されたデータが実態と合わないという指摘があり、厚労省がデータを修正して再提出しました。

5月16日から22日のワクチン接種歴別の10万人あたりの新規感染者数のデータは下記の通り。

年齢……….未接種….2回接種済…3回接種済
00-11 338.1 -----  ----
12-19 303.3 212.5  71.9
20-29 245.9 201.4 105.9
30-39 185.8 194.1 113.7
40-49 116.5 151.8  79.0
50-59 129.2 105.3  47.1
60-69  42.4  81.1  33.5
70-79  42.5  65.4  22.3
80-89 247.6  69.4  25.1
90以上.. -----  91.8  46.4

注意事項としては、このHER-SYSのデータでは、感染または発症したのがワクチンを接種してから何日目なのかという情報がありません。

ワクチンをうったばかりなのか、接種後しばらく時間が経っているのか、区別することができません。

しかし、それでもこのデータをみるといくつか不思議な点があります。

まず、年齢階層によっては、未接種者よりも2回接種済者のほうが陽性者が多くなっています。

30-39、40-49、60-69、70-79では、2回接種済者の十万人あたり陽性者数が、未接種者のそれよりも大きくなっています。

このデータは、5月16日から22日の間の新規陽性者数ですが、私の手元にある3月28日から4月3日、4月11日から17日、4月18日から24日、4月25日から5月1日、5月2日から5月8日のそれぞれのデータでも同じようになっています。

さらに不思議なのは、このいずれの期間でも50-59の年齢階層では、全く反対に、未接種者の10万人あたりの新規陽性者数が、2回接種済者のそれを上回っています。

さらに60歳代を60-64と65-69に分けてみてみると、4月25日以降のデータでは、65-69の階層で、未接種者の10万人あたりの新規陽性者数を、3回目接種済者のそれがわずかに上回り始めます。

ワクチンによる感染予防あるいは発症予防の効果は、時間の経過と共に低下していきます。

多くの人は、2回目の接種から時間が経っていますから、感染予防あるいは発症予防の効果は低下していると思われますが、若干でも効果が残っていれば、2回目接種者のなかの新規陽性者数が未接種者のそれを下回るはずです。

それでも特定の年齢階層で、2回接種済者の新規陽性者数が常に未接種者のそれを上回るのはなぜでしょうか。

そして反対に、50-59の階層で、常に2回接種者の中の新規陽性者数が未接種者のそれを下回っているのはなぜでしょうか。

アドバイザリーボードでも議論が始まっているようです。

考えられるのは、ワクチンを2回接種したことで、感染へのおそれが小さくなり、より活動的になり、結果として感染してしまった人が多いのでしょうか。

しかし、それでは50-59の階層だけ、未接種者のなかで新規陽性者が多くなっていることの説明になりません。

3回目接種済者の中の新規陽性者数は、未接種者や2回目接種者のそれを下回り、ワクチンの効果が明確になっています。

しかし、65-69の年齢階層では、新規陽性者数が未接種者のそれを上回っていることに注意が必要です。

HER-SYS情報の点検とアドバイザリーボードの議論の結果を待ちたいと思います。



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