野党の戦略
2016.11.08
TPPの審議で国会がもめています。
山本農水大臣の「失言」で、野党による日程闘争になっています。
しかし、こうした野党による日程闘争には、様々な問題があります。
まず、TPP以外の問題に関する国会での議論が止まってしまうこと。
例えば、今、消費者庁が行っている食品の原料原産地表示などは、多くの消費者に関心を持ってほしい事柄ですし、現に多くの消費者、事業者が関心を持っているテーマです。
しかし、TPP特別委員会の審議が優先ということで、この臨時国会ではこれまで消費者問題特別委員会では質疑ができていません。
国民にとって、国会の日程闘争は百害あって一利なしです。
委員会の日程がなかなか決まらないと、今日、明日の委員会の日程を決めるということが頻繁に起こります。
明日、委員会を開催することが今日決まるということになると、しかもそれがTPPのような複数の官庁にまたがるテーマだと、質問通告が出るまで、霞が関では大勢の国会待機が発生します。
官僚の中には子育て、介護にかかわる人もいるわけですが、そんなことにはまったく関係なく、待機になります。
さらに、大臣の日程も決まりません。
夜中過ぎに全ての質問が出そろうまで、日程が決まらない。次の日に、訪日中の外国の閣僚との会談がセットされていても、質問通告が当たれば日程をドタキャンしなければなりません。
野党の日程闘争は、我が国の行政の執行に、多大な障害を及ぼしています。
しかも、野党の日程闘争で、野党の支持率が上がるかといえば、必ずしもそうとはいえません。
国民も、行政も、当の野党も、みんな被害をこうむるわけです。
ではなぜ、それでも野党は日程闘争をやるのでしょうか。
それは、今のままでは野党にはほかに手段がないからです。
与党が過半数を握る今の国会では、採決をすれば法案は、必ず可決されます。だから野党は、採決を一日でも遅らせば、一点獲得のようなつもりで日程闘争をやるのです。
壮大な無駄と言わざるを得ません。
では、どうすればよいのでしょうか。
私は、2009年の自民党の総裁選挙に出馬して負けましたが、もし勝っていればやろうと思っていたことがあります。
まず、第一に、影の内閣を組織して、閣僚に対して必ず対応する影の閣僚が論戦を挑むこと。
予算委員会をはじめ、すべての国会の委員会やテレビの番組で閣僚を相手に影の閣僚が論戦を挑みます。
政府の厚労大臣と影の厚労大臣が常に論戦をする、農水大臣には影の農水大臣が常に挑むという形にします。
そうして国民にどちらが優れているかを見てもらうわけです。政府には省庁がついていますし、現職の大臣なわけですから、閣僚がディベートに勝って当たり前、しかし、時に影の大臣が優勢に議論を進めれば、それは確実に野党のポイントになります。
場合によっては、労働問題は影の労働問題担当が、与党の副大臣に論戦を挑むということもあるでしょう。副大臣や大臣政務官も議論の場にどんどん引っ張り出すことが大切です。
最初の一時間を閣僚と影の閣僚の議論の時間にすれば、後は閣僚には退席してもらって、副大臣や政務官と影の副大臣、政務官のディベートにすることができます。大臣を無駄に国会に張り付ける必要はありません。
次に、影の内閣と幹事長室、国対など、党の「執行部」はどこまでかを明確に定義します。
党の方針は、「執行部」で決める、そして執行部のメンバーには造反を許さない。しかし、執行部ではない議員に関しては、本会議などの採決を拘束をしないようにしようと思っていました。
そんな馬鹿なといわれるかもしれません。
しかし、国民によってえらばれた議員が、国会で、自らの判断を放棄して、言われて通りのことをやるだけでは民主主義とは言えません。
党の総裁、執行部はTPPには反対するが、もし、TPPに賛成したい議員がいたら賛成してもよい。執行部の一員が賛成に回りたいならば、執行部の役職を辞任して、平議員となって賛成票を投じることはかまわない。
それが本来の議院内閣制の在り方ではないでしょうか。
もちろん、だからと言って好き勝手に投票すればよいというものではありません。
造反ばかりしていれば執行部には入れません。党の方針、政策の決定に関与することはできません。
また、党が常に分裂していれば、有権者からは見放されてしまいます。
様々なことを考えながら時には妥協し、時には自分の信念に基づいて党の役職をなげうってでも突っ張るということを、議員一人一人が常に考えなければなりません。
そして、もし、野党がそれを始めれば、やがて与党もそうせざるを得なくなると私は思っています。
野党議員が採決のたびに悩み、決断し、そして自分の投票行動をきちんと説明しているのに、常に朝鮮労働党のように言われた通り立ったり座ったりするだけの与党は、国民の目にどう映るでしょうか。
与党も野党も党議拘束をかけ、常に党のすべての議員が採決のたびに同じ投票行動をする前提の議会では、採決の結果は見えています。
それならば、まず、野党から、議員一人一人の判断に基づいた投票行動を許せば、やがて与党もそうせざるを得なくなります。
そうなれば、国会の議論の中で、政府案がいかにおかしいか、議論で与党議員を動かし、時には政府案が否決されたり、修正されたりすることができるでしょう。
急がば回れ。
単なる日程闘争に理もなければ、国益もありません。
私が野党の総裁ならば、まず、自分の党の議員から、自分の判断で採決の態度を決められるようにして、国会での採決の結果が、採決するまでわからない、議論によって採決の結果が動きうる、そういう国会を作ろうとします。
野党が真の議会制民主主義の確立に動けば、与党もそれにつられて動かざるを得ません。
今、野党がやるべきは日程闘争ではないと思います。
この河野戦略、もし民進党執行部が真似をしたければ、どうぞ真似していただきたいと思います。
意味のある議論ができる国会を作りましょう。