- HOME
- » ごまめの歯ぎしり » 07自民党中央政治大学院長 » 特定秘密保護法について
特定秘密保護法について
2013.12.10
臨時国会で特定秘密保護法が成立しました。
この特定秘密保護法について、例えばこの法案を廃案にしたほうがよいのではないかというメール等をいただきました。
また、この法案は基本的人権を損なうのではないかというようなご指摘もありました。
本当にそうでしょうか。
どの国にも特別に秘匿すべき情報があります。自衛隊の武器の設計図や暗号、外交交渉の手の内などは公開するわけにはいきません。
これまで、こうした「特別に秘匿すべき情報」は、政府内の「カウンターインテリジェンス推進会議」決定の「カウンターインテリジェンス機能の強化に関する基本方針」が定める「特別管理秘密」として管理されてきました。
カウンターインテリジェンス推進会議は、平成18年に内閣総理大臣の決定で内閣に設置された官房長官を議長とする会議体です。
特別管理秘密を定めた「カウンターインテリジェンス機能の強化に関する基本方針」は、概要は公開されていますが、全文は公表されていません。
現在、特別管理秘密は、基本方針こそ定められていますが、その運用は各省庁ごとにばらばらに行われています。
例えば経済産業省は、特別管理秘密として指定している事項の名称も明らかにしていません。
また、外務省は、例えば「外交機密文書等」を「特別管理秘密」として取り扱うこととしていて、個別具体的な事項を指定していません。
また、特別管理秘密には、宮内庁が指定した「皇室会議議員互選関係1、2、3」のように今回の「特定秘密」には含まれないような事項も指定されています。
特定秘密保護法案が廃案になっていたら、この「特別管理秘密」による管理が続いていくことになります。
法律によって定められた「特定秘密」はダメで、行政が行政の中だけで定めた基本方針(しかも全文は非公開)により各省庁がばらばらに運用する「特別管理秘密」ならば良いというのは、明らかにおかしいと思います。
例えば特定秘密保護法は、大臣が特定秘密を指定することになっていますが、これまでの特別管理秘密では、内閣情報官や各省の局長など官僚が、政務三役に知らせることなしに特別管理情報を指定することができました。
特定秘密保護法により、かならず国民が選んだ政権の大臣が秘密の指定をすることになるのは前進です。
現在の「特別管理秘密」には期間の上限も定められていませんし、「特定秘密」のように5年以上にわたり指定する場合には、大臣等が5年ごとに再び指定しなければならないというルールもありません。
「特別管理秘密」については、例えば警察庁では「特別管理秘密文書の管理に関する訓令」で、「補助管理責任者は、特別管理文書の保存期間が満了したときは、自ら又は自らが指定する特別管理秘密文書取扱者の立会いの下、他の自らが指定する特別管理秘密文書取扱者に当該特別管理秘密文書を廃棄させるものとする」として、特別管理秘密が省内の官僚の判断で廃棄されるようになっています。
また、現在、特別管理秘密を取り扱うためには、各省庁が行う特別管理秘密取扱者適格性確認制度の下で、本人の同意なしに適性評価が行われています。
特定秘密保護法では、法律に基づいた適性評価を本人の同意を得て実施し、その結果に対する異議申し立てもできるようになっています。
こうしたことを考えると、法律に基づいて行う「特定秘密」より、法律にも基づかない行政府の中で完結してしまう「特別管理秘密」の制度のほうが好ましいとは思えません。
特定秘密保護法案が廃案になっていれば、特別管理秘密の運用が続いたわけですが、そのほうがよかったとは私は思いません。
政府が秘密を指定すること自体がおかしいというご意見もありますが、私は全く同意しません。外交交渉の手の内が公表されれば我が国に不利になるのは当然ですし、自衛隊の武器や暗号の情報は秘匿しなければなりません。
40万という情報の数を問題にする声もあります。しかし、その9割は衛星写真ですし、その他に多数の設計図やコンピュータのコードがあります。
特定秘密保護法を何か戦前のもののように喧伝するむきもありますが、特定秘密保護法は特定秘密を洩らした公務員を処罰する法律であって(防衛産業などで特定秘密を使って仕事をする民間人も含まれますが、その人たちは当然、自分がその対象になることを知り、同意しています)、国民の99.95%には無関係です。
もちろん「外国の利益若しくは自己の不正の利益を図り、又は我が国の安全若しくは国民の生命若しくは身体を害すべき用途に供する目的で、人を欺き、人に暴行を加え、若しくは人を脅迫する行為により..特定秘密を取得した者」は罰せられますが、それは当然でしょう。
朝日新聞等が、民間人も処罰されかねないとこんなケース、あんなケースを書いていますが、あきらかに違っています。
報道が委縮しかねないという報道機関もありますが、プロのジャーナリストなら、報道に関するルールは当然熟知しているはずで、きちんとした報道機関ならばきちんと社員に教育もするでしょう。この法律が成立したからといって萎縮するはずがありません。
特定秘密保護法によって、原発事故に関する情報が出てこなくなると心配する声もありますが、特定秘密に指定されうる情報は、公になっていない国の情報だけですから、警備に関する情報を除き、民間会社が経営している原子力発電に関する情報が特定秘密に指定されてアクセスできなくなるということはありません。
2012年の秋に、ACTAという条約をめぐって、ネット上で今回と同じようなことが起きました。
ACTAが通るとプロバイダが常に個人のツイートなどを監視するようになるとか、ACTAに参加するとジェネリック薬の利用が制限されるとか、ACTAが通ると著作権者の意思にかかわらず、政府が著作権侵害で逮捕できるようになるとか。どれも違いました。
政府あるいは与党が政策をきちんと説明するための情報発信ツールをしっかり準備しておく必要があると、今回、痛切に感じました。