関電、九電の値上げのいい加減さ

2013.03.29

関西電力と九州電力の料金値上げが申請され、その値上げ幅が妥当かどうかを電気料金審査専門委員会という「有識者」の会議が「審査した」ことになっている。
しかし、その審査の内容たるやメチャクチャだ。このままでは、辞書にある「有識者」の定義を書き直さなければならないだろう。
一つ例を挙げよう。
「事業報酬率」というものがある。発電用の資産(レートベースと呼ばれる)にこの事業報酬率を掛けたものが電力会社の利益に当たる事業報酬になる。
今回、両社はこの事業報酬率を2.9%とする申請を出している。
事業報酬率は、資本を自己資本と他人資本に分け、他人資本については全電力会社の有利子負債利子率、自己資本については電力を除く全産業の自己資本利益率を上限とし、公社債利回りの実績を下限とすることになっている。
つまり事業報酬率=他人資本報酬率(有利子負債利子率)x他人資本比率+自己資本報酬率(自己資本利益率及び公社債利回り)x自己資本比率ということになる。
他人資本報酬率の有利子負債利子率は1.49%ということになっている。
自己資本報酬率は、公社債利回り1.52%と電力を除く全産業の自己資本利益率6.86%をもとに、ウェイトづけして計算する。
両社の申請は、公社債利回り0.11、自己資本利益率0.89というウェイトづけをして自己資本の報酬率を6.28%とした。
つまり自己資本報酬率=公社債利回りx0.11+自己資本利益率x0.89=6.28%となる。
そこで、自己資本報酬率6.28%x自己資本比率+他人資本報酬率1.49%x他人資本比率=事業報酬率となる。
この自己資本報酬率のウェイトづけの0.89という数字は、βという企業の相対的なリスクの大きさを表す数字をもとに計算されている。
βが大きくなると、自己資本報酬率の中の自己資本利益率の割合が高くなり、最終的な事業報酬率が大きくなり、電力会社の儲けが大きくなる。
今回の「有識者」会議は、自己資本報酬率を決めるためのβは、電力9社のβの平均を採用するのが適当としている。しかし、現在の東京電力には、賠償その他の特殊な事情があり、他の電力会社の事業報酬率を決める際に、そのβを参考にすべきではないはずだ。
「有識者」会議は、電気事業全体の状況を反映すべきだから東電も入れるべきという不可思議な理由を示し、さらに、東電のβは電力会社の中で最も高いわけではないなどとわけのわからないことを言っている。
確かに東電のβは1.32と東北電力の1.38よりは低いが、特殊事情を持つ東電を計算に入れること自体がおかしい。
東電のβを外して計算すると、βは0.836となる。
このβをウェイトづけに用いると、自己資本報酬率は6.28%から5.98%に低下する。
そうなると事業報酬率は、6.28%x自己資本比率+1.49%x他人資本比率から5.98%x自己資本比率+1.49%x他人資本比率に替わる。
そしてさらに大きな問題は、この自己資本比率にある。両社の申請では、自己資本比率を30%、他人資本比率を70%としている。
つまり5.98%x30%+1.49%x70%という計算になる。
しかし、関電の自己資本比率は2012年12月末で15%、九電は同じく13%しかない。
実際の自己資本比率を使えば、関西電力の事業報酬率は、5.98%x15%+1.49%x85%=2.16%であり、九州電力は5.98%x13%+1.49%x87%=2.07%になる。
今回、「有識者」会議が「妥当」とした2.9%からは、大きく下がる。
関西電力の事業報酬は、1360億円から1013億円へ、九州電力の事業報酬は、889億円から635億円へと圧縮される。
自己資本比率を空想の30%とすることによって、電力会社の利益は大きく水増しされている。
経産省は、電力会社の自己資本比率は30%で「あるべきだ」としている。健全な経営をするためには、自己資本比率は30%であるべきだということを省令で定めている。だから、あるべき自己資本比率で事業報酬を決めるべきだ、と。
それならば、あるべき自己資本比率を大きく下回っている、つまり経営がおかしくなっている関電や九電に、極めて高い人件費を認めるのはおかしい。
「有識者」会議は、この両社の人件費を「一般的な企業」の平均値である賃金構造基本統計調査の1000人以上・正社員と比較している。
市場で競争している企業の人件費と市場で競争する必要のない(自由化された部門ですら競争を拒否している)企業の人件費が同じであってよいはずがない。
まして経営がおかしくなっている電力会社の人件費が民間の大手企業と同じだというのは理屈に合わない。
総括原価で料金が決まる電力会社の人件費は、公務員の人件費と比較すべきだ。
事実、「有識者」会議は、両社の役員報酬は国家公務員の指定職並みに削減している(それでも決して安くはないが)。
さらに、この両社は健康保険料の企業負担を法定の50%を上回って申請している。「有識者」会議は、55%までの企業負担は妥当としている。
自己資本を毀損して、望ましい姿ではない状態にある企業に、なぜそんなに高い人件費と法定以上の福利厚生費の企業負担を認め、消費者にそれを負担させるのか。
今回の料金算定は、細かく見れば、まだまだたくさんおかしいところがある。与党は単なる政府への申し入れ以上のことをしなければならない。



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