骨抜きにされる公務員制度改革

2011.05.14

震災後、一月もたたない4月5日に、民主党政権は「国家公務員制度改革の『全体像』」を発表した。

その内容は、ひどい!

どんどん骨抜きになる公務員制度改革の最新状況を、解説しておきたい。

その一、天下り規制

天下り規制は、2007年、安倍内閣が成立させた。

強い調査権限を持つ「再就職等監視委員会」が法律によって設立された。しかし、民主党政権は、この監視委員会の委員長、委員の任命を意図的に行わず、この監視委員会が発足できていない。

エネ庁のトップが東電に天下りした事例でも、本来、この委員会が調査すべきなのに、委員会が発足できず、調査ができなかったため、天下りが容認されてしまった。

今回発表されたこの『全体像』では、「定年まで勤務できるように...人事交流の機会の拡大を図る」と書かれている。これは天下りに対する世間の目が厳しいので、人事交流という名目で民間企業に『出向』する機会を増やしましょうということだ。エネ庁から東電に天下るのではなく、出向しましょうということ。

本来、人事交流は、若手官僚の教育の一環だったはず。それを定年間際の官僚に「人事交流」させ、一度、定年の時に役所に復帰させて、あわよくば、定年後に同じところに再就職させようという企みだ。

その二、内閣人事局

2008年に当時の「与野党が合意して」制定した公務員制度改革基本法では、政府の人事部にあたる内閣人事局を設立して、首相官邸で官僚人事を掌握することを最優先にしていた。

そのためには人事院(任免権限)、財務省(予算)、総務省(定員、組織)等に分散している人事関連の権限を新設される内閣人事局に集め、強力な政府の人事機能をつくろうとした。

各省で人事を操りたい官僚は猛反発した。今回の『全体像』に盛り込まれた内閣人事局は、全く別物で、ほとんど権限がない組織になっている。

『全体像』によれば、内閣人事局の他に「公務員庁」「人事公正委員会」という別組織が設立されることになる。権限を分散させて、官邸主導の人事をさせないぞという官僚の思惑がそのまま盛り込まれた。

総務省の人事・恩給局と行政管理局を独立させて、人事院と再編成して、新たに内閣人事局、公務員庁、人事公正委員会という三組織になる。幹部ポストだけはどんどん増える焼け太りの典型例だ。

その三、国家戦略スタッフ

麻生内閣では、人事を官邸が掌握しようというのだから政策も官邸がきちんと掌握する必要があるということで、総理を支える直属のスタッフをつくろうとして、野党の反対で廃案になった。

民主党政権の提出した政治主導確立法案によれば、国家戦略局を官房長官の下に設立することになっていて、国家戦略担当大臣は法案のどこにも位置づけられていないというおかしなことになっている。指揮命令系統を不明にして、力を削ぐという官僚のサボタージュに瞞されている。

幸か不幸か、この法案は撤回された。その理由は、大臣を3人増やす法案を優先したいからということらしい。その結果、国家戦略スタッフの思想は、消えた。

その四、公務員庁

総務省から旧行政管理庁を独立させたいという官僚の思惑の産物で、今回の『全体像』のなかでは、公務員庁の事務のなかに「独立行政法人や特殊法人の改廃審査」とか「行政情報システム関連の事務」など公務員制度改革と関係のないものも無造作に入っている。

麻生内閣でも官僚が最初に作った案では同じようなことがあったが、塩崎、中川両元官房長官が断固反対して、修正させた。民主党政権になって、官僚は、自民党が修正させたものを再度、組み込んで出してきた。

その五、人事院

今回の『全体像』では、人事院は廃止され、給与は労使協約でということに表向きなっているが、新設される公務員庁が民間の給与水準を調査研究することになる。これではこれまでの人事院勧告と同じように、意図的に高い水準を出す制度になる。

本当に官民の比較をするならば、国税庁のデータを利用すればよいだけ。

その六、優先順位

『全体像』では、労働基本権拡大を最優先したいようだが、今、直すべきは、官邸の機能不全と天下りの是正ではないか。

官邸が司令塔となってきちんと各政府組織を使い切るためには、強力な内閣人事局と国家戦略スタッフが必要であり、幹部人事が一般職とは別のルールで、降格もできるし、抜擢もできるようにすべきだ。

天下りを規制する再就職等監視委員会は、法律で設置できるのだから、民主党政権は、そのとおりにやるべきだ。

結局、震災のどさくさにまぎれて、官僚が都合のいい改革をやろうとしている。蓮舫大臣に続き、中野公務員制度改革担当大臣も内容がわかっていないのではないか。

この『全体像』は、落第点だ。



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