おすすめの二冊 第九ヒスパナ軍団

2022.08.17

イギリスの作家、ローズマリー・サトクリフの名作「第九軍団のワシ」については、このコーナーで以前にも触れたことがあるような気がします。

ローマ時代のブリテン島に駐留していたローマ帝国の第九ヒスパナ軍団が、ハドリアヌスの長城を越えてさらに北に進軍した後、忽然と姿を消し、主人公がその軍団のシンボルで、奪われたワシの像を見つけ出して持ち帰るというストーリーです。

ハリウッド映画にもなった有名な作品です。

この第九ヒスパナ軍団は、実際に歴史から忽然と姿を消しています。

ローマ帝国には数十の軍団があり、それぞれの歴史が記録されています。

しかし、この第九ヒスパナ軍団は、突如、ローマの歴史から姿を消し、いつ、どこで、なぜ、消えてしまったのか記録が残っていません。

そのため、第九ヒスパナ軍団に何が起きたのか、これまで何人もの学者がその謎に取り組んできました。

ローマのすごいところは、やたらと石碑にいろんなことを刻んできたところです。

そしてローマについて研究してきた大勢の学者は、かつてローマ帝国だったところで発見された文字の刻まれた大小の石碑や石や茶碗に至るまでを記録し、番号を振って、カタログ化してきました。

それをたどることによって、ローマの軍団やローマ時代に生きたさまざまな人間の一生が追えるようになっているのです。

第九ヒスパナ軍団そのものについての石碑もあれば、第九ヒスパナ軍団の指揮官だった者、百人隊長だった者などが、その後、どんな役職に就いたかということを石碑を使って調べ、そこから第九ヒスパナ軍団に何が起きたかを探り出そうということが行われています。

そうした第九ヒスパナ軍団に何が起きたかという謎に挑戦した本が二冊。

「The FATE of the NINTH」 Duncan B Campbell
わずか百数十ページの読みやすい入門書です。

ローマの石碑がどうカタログ化されたかに始まり、第九ヒスパナ軍団がハドリアヌスの長城を越えて進軍し、北の部族に敗れて全滅したという学説がどうして主流になったのかを、丁寧に解説しています。

そして、第九ヒスパナ軍団を巡る最近の新しい学説を紹介しています。

「ROMAN BRITAIN’S MISSING LEGION」 Simon Elliott
第九ヒスパナ軍団に何が起きたか、キャンベルも指摘する四つの学説を取り上げて、一つずつ丁寧に解説していきます。

一、ハドリアヌスの長城を越えて進軍し、そこで北の部族と戦って壊滅し、消えた。

二、イケニ族の女王ボーディッカの反乱以来の反乱がロンドンで起き、第九ヒスパナ軍団はそれを鎮圧しようとして失敗したか、その反乱に加わったことにより、歴史から消されてしまった。

三、近年、オランダのローマ遺跡から「第九ヒスパナ軍団」と刻まれたレンガが出土したことから提案されている新しい説で、第九ヒスパナ軍団はブリテン島から移転し、ローマ帝国の北部国境沿いでのゲルマン民族との戦いで全滅した。

四、第九ヒスパナ軍団は、ブリテン島からローマ帝国東部国境付近に移転し、そこでのパルティアとの戦い、あるいはユダヤ人の反乱の鎮圧に参加し、壊滅した。

キャンベルはどちらかというと、帝国の東部説に肩入れしているようにも読めますし、エリオットは四つの説を解説しながら、やはりブリテン島の北部で失われたと考えられると結論づけています。

二人ともローズマリー・サトクリフの「第九軍団のワシ」は、フィクションであり、シルチェスターから出土したワシは、第九ヒスパナ軍団のワシの像ではないと結論づけていて、サトクリフファンとしてはちょっとがっかりしますが、もともとサトクリフ自身が忽然と消えた第九ヒスパナ軍団とシルチェスターのワシを結びつけてみたと言っていますから、そうなんだろうなと思うしかありません。

サトクリフファンにおすすめのトピックですが、読みやすさはキャンベルです。



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