おにぎりと年金
2021.11.29
2014年の記事ですが、アップデートして再掲します。
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あなたが会長を務める自治会が、公民館で炊き出しをやることになりました。
大きな釜でご飯を炊いて、おむすびを握ります。
そして自治会のメンバー全員に、年齢順に並んでもらって大きなおむすびを配っていきます。
しばらくして、あなたはふと心配になりました。釜の中のご飯が思ったよりもずいぶん早くなくなっていきます。
このままでは行列の最後までおむすびを配ることができません。
そこであなたは配るおむすびの大きさを、少しずつ小さくしていくことにしました。
おむすびを握っている自治会の役員さんたちに、目立たないようにおむすびを少しずつ小さくしていってくださいと頼みました。
これでお釜のご飯はなんとか行列の最後までもつでしょうか。
このおむすびが年金です。
そしてこのおむすびを小さくするのが年金の「マクロ経済スライド」です。
年金は、本来、インフレに合わせて金額が調整されます。
1%のインフレの時に年金の金額を1%増やさないと実質的な購買力は1%小さくなってしまいます。
しかし、マクロ経済スライドが入るとそうはなりません。
例えば物価上昇率が2%でも、年金の引き上げは2%-(スライド調整率)になります。
たとえば物価上昇率が2%、スライド調整率が1.3%なら、2%から1.3%を差し引いた0.7%分の年金引き上げにとどめられます。
名目の年金額は増えますが、実質的な年金の購買力は1.3%分減ることになります。
スライド調整率とは、はやくいえば、現役世代の人口減少率と平均余命の伸び率を足したもので、具体的には「公的年金全体の被保険者の減少率の実績」+「平均余命の伸びを勘案した一定率(0.3%)」です。
「えっ、聞いてないよ」とおっしゃるかもしれませんが、これは2004年、小泉政権の時に決まった政策です。
ところが、2004年から2014年まで、デフレを理由にマクロ経済スライドは発動されませんでした。はじめて発動されたのがようやく2015年、その後2019年、2020年にも発動されましたが、結局3回しか発動されていません。
つまりおむすびが大きすぎることに気がついていたのにおむすびを小さくしてこなかったのです。
そのため、お釜の中のご飯は、どんどん減ってしまいました。
これは、名目の年金額は維持するという取り決めがあったためです。
例えば、ある年度は物価上昇率0%、スライド調整率1.3%だったとします。
するとこの年度は、年金額をスライド調整率分1.3%減額するのではなく、据え置くというルールとしたのです。
2004年以降、わが国はデフレが続き、このルールがあるために、おむすびは小さくなってこなかったのです。
そこで、物価の下落に合わせて年金を削減すると同時に、スライド調整率分もさらに差し引くことができるようにしようという議論があります。
そうしなければ年金の積立金が予定よりも大きく減少し、将来世代の年金に影響が出ることになります。
さて、このおむすびを小さくしていくことに、あなたは賛成してくださいますか。