宇宙の軍拡

2020.07.11

朝日新聞の2020年7月4日に「宇宙基本計画 『安保』最優先の危うさ」という社説が載った。
 
「宇宙の利用が拡大し、民の力が問われる時代に、安全保障への貢献が最優先なのか。」という一文で始まる。
 
「「宇宙を『戦闘領域」や『作戦領域』と位置づける動き」が米国などで広がっているとの認識が前文で示され、宇宙政策の「目標」として、「災害対策」「科学・探査」「経済成長」の前に、真っ先に「宇宙安全保障の確保」が掲げられた。」
 
「多数の小型衛星を打ち上げて一体運用する『コンステレーション(星座)』に、ミサイルの探知・追尾といった早期警戒機能を担わせるべく、米国と連携して検討し、必要な措置を講じると明記された。」
 
「周囲の状況を把握する米国の機器を載せることになった日本版GPS、準天頂衛星『みちびき』の担当省庁には、防衛省が加えられた。」
 
「軍事的な宇宙利用を強める中国、ロシアを『最大の脅威』と位置づけ、同盟国との連携強化を掲げる米国の国防宇宙戦略に呼応する動きといえる。安保への傾斜はとりもなおさず、宇宙空間での日米同盟の強化だ。」
 
「宇宙における軍拡競争をエスカレートさせたのでは、元も子もない。」などと続く。
 
宇宙基本計画の前文を正確に読むと、「従来議論されてきたミサイル等による衛星の破壊にとどまらない、多様な妨害手段の開発を始めとする宇宙空間における脅威の増大が指摘される中、米国を始め、宇宙を「戦闘領域」や「作戦領域」と位置付ける動きが広がっており、宇宙安全保障は喫緊の課題となっている。」とあり、中国やロシアなどが開発してきた多様な妨害手段などの脅威の増大に対抗する必要があるからこそ、宇宙安全保障が喫緊の課題となっていることが説明されている。
 
災害対策や科学・探査、経済成長のために人工衛星などを活用するためには、人工衛星などを守らなければならない。
 
宇宙安全保障が確保されずに、宇宙における我が国の資産を活用することができないのは明白だ。
 
弾道ミサイルなどの脅威から我が国の国民の命や平和な暮らしを守るためには、ミサイルの発射を早期に探知し、追尾する能力を高めることは必須であり、同盟国であるアメリカとの協力でそれができれば、技術的にもコスト的にも、我が国には大きな利益になるのではないか。
 
また、そもそもGPSは軍事用に開発されたものを民生用にも開放しているものだ。
 
GPSの精度をさらに向上させる準天頂衛星「みちびき」は、我が国の安全保障には欠かせない。
 
担当省庁に防衛省が入っているのは当然ではないか。
 
ここ数年、中国、ロシアによる宇宙における軍事拡大は著しい。
 
公刊資料によれば、軍事利用のための衛星は、中国は偵察衛星66基、測位衛星34基を運用しており、アメリカの偵察衛星44基、測位衛星31基を引き離している。
 
中国やロシアは、低軌道の衛星の破壊を目的としたミサイルの導入を目指した実験を繰り返し、衛星に搭載されたセンサーにダメージを与えるようなレーザー兵器や衛星の通信やGPS信号をジャミングする機能の開発も進めているほか、軌道上で不審な動きをする衛星も報告されている。
 
なぜ、こうした中露の動きについては何も触れないのだろうか。
 
宇宙における軍拡を進めているのは中露であるにもかかわらず、なぜ、彼らの動きについては一言もないのだろうか。
 
宇宙における安全保障の必要性を高めたのは、こうした中露の動きではないか。
 
それなのに「『安保』最優先の危うさ」などと、まるで日本が自ら好んで踏み出そうとしているかのようなタイトルも、読者を誤解させるものだ。
 
今、宇宙領域を含む我が国の安全保障に関して、何が起きているかをきちんと情報提供するのがメディアの責任ではないか。



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