米軍の起訴率は低いのか

2020.03.28

2020年2月9日の沖縄タイムスに「米軍関係の刑法犯 低い起訴率 識者『日本が裁判権放棄した密約生きている』」という記事が載りました。
 
「NGOの日本平和委員会が発行する平和新聞編集長を務める布施祐仁さんは、国内で発生した米軍関係者による一般刑法犯の起訴率を調べて公表する活動を2008年から続けている。
 
米軍人の犯罪などをまとめた法務省の「合衆国軍隊構成員等犯罪事件人員調」によると、01年から18年までの米軍関係者の一般刑法犯(刑法犯全体から交通関係の過失運転致死傷罪などを除いたもの)の起訴率は13.17%だった。
 
これは同時期の全国の起訴率43.85%と比べると3割程度にとどまる。布施さんは「密約が今も生きている証拠だ」と指摘する。」
 
一般刑法犯とは、刑法と次の11の特別法に規定する罪をいいます。
 
爆発物取締罰則、決闘罪に関する件、印紙犯罪処罰法、暴力行為等処罰法、盗犯等の防止及び処分に関する法律、航空機の強取等の処罰に関する法律、人の健康に係る公害犯罪の処罰に関する法律、航空の危険を生じさせる行為等の処罰に関する法律、人質による強要行為等の処罰に関する法律、組織的犯罪処罰法、自動車運転死傷処罰法(2条、3条、6条1項及び2項に規定する罪のみ)。
 
刑法犯とは、一般刑法犯に自動車運転過失致死傷罪等(自動車運転死傷処罰法4条、5条、6条3項及び4項に規定する罪並びに業務上(重)過失致死傷(ただし、自動車又は原動機付き自転車による交通犯罪以外の業務上(重)過失致死傷を除く))を加えたものをいいます。
 
刑法犯に特別法犯(刑法犯以外の罪をいい、条例・規則違反を含みます)を加えたものが全ての犯罪です。
 
起訴率とは起訴人員数を起訴人員数+不起訴人員数で割ったものです。
 
2020年2月10日の沖縄タイムスには「米軍関係者と全国の起訴・不起訴数(一般刑法犯)」という表が載っています。
 
本来、「一般刑法犯」の定義には、「自動車運転過失致死傷」を含まず、「危険運転致死傷」を含みます。
 
しかし、この表の日本全国の数には「自動車運転過失致死傷」が含まれている一方、「危険運転致死傷」が含まれていないようです。
 
そのため、この表の数字には若干の誤差があります。
 
さて、米軍関係者と日本全国の割合を比較するためには、比較対象を同一にしなければなりません。
 
まず、日本全国の不起訴処分の数字には微罪処分が入っていません。
 
微罪処分とは、犯情の特に軽微な成人による事件について、司法警察員が検察官に送致しないことです。
 
例えば窃盗であっても、被害額が僅少で、被害の回復が行われ、被害者において被疑者の処罰を希望していない場合に、微罪処分として送致されないことがあります。
 
他方、米軍関係者の場合、微罪処分は行われず、全件が検察官に送致されます。軽微な事件の場合、そこで不起訴になるケースがあります。
 
日本全国の不起訴人員数には微罪処分になった数は含まれていません。
 
同一条件で比較するためには、微罪処分数を不起訴人員数に加えなければなりません。
 
さらに米軍関係者の場合、「公務中の犯罪」と「『専ら犯』といわれる米軍人や米軍関係者同士の犯罪」には、日本に第一次裁判権がありません。
 
こうした犯罪は、検察官に送致されますが、不起訴になります。
 
日本に第一次裁判権がない犯罪は必ず不起訴になりますから、同一条件にするためには、米軍関係者の不起訴人員数から差し引く必要があります。
 
まず、2018年のデータで、日本全国と米軍関係者の「全ての犯罪」における起訴率を比較してみます。
 
日本全国の場合、起訴数308,721件、不起訴数632,323件。これに(全ての犯罪の)微罪処分60,548件を不起訴処分に加えると308,721/308,721+(632,323+60,548)=30.8%。
 
米軍関係者の場合、起訴数143件、不起訴数357件。不起訴件数から第一次裁判権がない74件を差し引くと283件。
 
143/143+(357-74)=33.6%。
 
一般刑法犯で比べてみると、日本全国では起訴数68,153件、不起訴数115,381件、これに(一般刑法犯の)微罪処分60,542件を加えると175,923件。
 
68,153/68,153+175,923=27.9%。
 
米軍関係者は起訴数10件、不起訴数55件、これから第一次裁判権がないもの2件を引いて53件。
 
10/10+53=15.9%。
 
たしかに一般刑法犯の起訴率は、米軍関係者の方が低いですが、記事にあるように日本全国の3割にとどまるということはありません。
 
全ての犯罪で比較すると、米軍関係者の起訴率の方が日本全国よりも高くなっています。
 
これだけで「密約が今も生きている証拠だ」とは言い切れないと思います。
 
ちなみに2009年を100として2018年と比較してみると日本全国では一般刑法犯の数は219,725件から183,534件と84%に減少していますが、米軍関係者の場合、2009年の125件が65件、52%へと、さらに低下しています。
 
全ての犯罪でみると日本全国は1,493,817件から941,044件へと63%に低下し、米軍関係者では845件から500件、59%へ低下しています。
 



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