輸出管理とは

2019.08.28

輸出管理とは

この夏、「輸出管理」という言葉がニュースを賑わせました。

輸出管理とはなにか、まずは入門編です。

冷戦時代には、西側諸国は、対共産圏輸出統制委員会(ココム)を設立し、東側諸国に対して厳しい輸出管理を行っていました。

冷戦終了後は、通常兵器が特定の国・地域に過剰に蓄積されることを防ぐために、通常兵器そのものに加え、通常兵器と民生品の両方に使用可能な物資や技術の輸出を管理するためにワッセナー・アレンジメント(WA)が、1996年7月に設立されました。

意外なところで民生品が大量破壊兵器やミサイルの開発に転用される可能性があります。だからこそ、輸出管理は厳格に運用されなければなりません。

例えば、ラケットやゴルフクラブのシャフトに使われる炭素繊維は、ミサイルに利用されます。

シャンプーに含まれるトリエタノールアミンは、マスタードガスの原材料となります。

フリーズドライ食材の製造機は、生物兵器の製造に使われます。

そして2001年の911同時多発テロとその後続発したテロ事件を契機として、テロ対策としても大量破壊兵器やミサイルとその製造に必要な物資の管理が必要となりました。

共産圏の国々を規制対象としていた冷戦時代と違って、大量破壊兵器、ミサイル及び通常兵器の不拡散のための輸出管理は、すべての国が協調して、すべての国・地域を対象とするのが特徴です。

また、テロリストのような国家主体でないものも対象としなければなりません。

大量破壊兵器に関しては、核兵器不拡散条約(NPT)、生物兵器禁止条約(BWC)、化学兵器禁止条約(CWC)といった条約があります。さらに不拡散を担保する国際輸出管理レジームがあり、大量破壊兵器など、また、それらの開発、製造、使用、貯蔵等に転用可能な原材料や技術、部品などの輸出管理のために、原子力供給国グループ(NSG)、オーストラリア・グループ(AG)、ミサイル技術管理レジーム(MTCR)の3つの国際枠組みがあります。

さらに、湾岸戦争後の国連決議に基づくIAEAのイラクに対する特別査察によって、それまでの国際的な輸出管理による規制レベル以下の技術や原材料・部品を利用して、イラクが大量破壊兵器の開発を進めようとしていたことが明るみに出ました。

これがきっかけとなって、大量破壊兵器やミサイルの開発を防ぐために、あらゆる物資や技術が大量破壊兵器やミサイルの開発に使われることを輸出者が「知った」あるいは「知らされた」場合に輸出許可の申請を行うことを義務付けるキャッチオール規制が導入されました。

そして2004年4月には、国連安保理で安保理決議1540号が採択され、非国家主体への大量破壊兵器の不拡散のための措置が国連加盟国の義務となりました。

リスト規制とキャッチオール規制
 
日本の輸出管理は、外為法に基づいて行われます。

外為法で規制対象とされている物資と技術を輸出する場合は、経済産業大臣の許可を受けなければなりません。

この規制にはリスト規制とキャッチオール規制という二種類があります。

リスト規制では、国際輸出管理レジーム(原子力供給国グループ、オーストラリア・グループ、ミサイル技術管理レジーム、ワッセナー・アレンジメント)に基づいて、一定の機能やスペックを持つ物資や技術がリスト化され、そのリストにある物資の輸出や技術の提供をする場合に経産大臣の許可が必要となります。

リスト規制の対象は、1武器、2原子力、3化学兵器、3の2生物兵器、4ミサイル、5先端素材、6材料加工、7エレクトロニクス、8電子計算機、9通信、10センサ、11航法装置、12海洋関連、13推進装置、14その他、15機微品目の15項目に分かれています。

リスト規制の対象地域は全地域ですが、特に国際的な懸念がある地域として、イラン、イラク、北朝鮮があげられています。

キャッチオール規制は、湾岸戦争終了後のイラクに対するIAEAの査察の結果、イラクがリスト規制に該当しない製品を使用して大量破壊兵器の開発を行っていたことが判明したことから、導入された規制です。

キャッチオール規制には、大量破壊兵器キャッチオール規制と通常兵器キャッチオール規制があり、需要者や用途に着目した規制です。

大量破壊兵器キャッチオール規制の対象は、リスト規制の対象となっている物資と技術以外の物資と技術(原則、食料品、木材等を除く)で、それらの輸出が下記の客観要件またはインフォーム要件に該当する場合は、経産大臣の許可が必要となります。

大量破壊兵器キャッチオール規制の客観要件には、用途要件と需要者要件があります。

輸出者が、契約書等の文書や輸入者等からの連絡により、輸出する物資や技術が核兵器等開発等に使われる恐れがあることを知った場合(用途要件)、または輸出する物資や技術の輸出相手が核兵器等開発等を行う恐れがあることを知った場合(需要者要件)には、輸出許可を申請しなければなりません。

また、輸出される物資や技術が大量破壊兵器等の開発等に使用されるおそれがあるものとして、経済産業大臣から輸出許可の申請をすべき旨の通知を受けたとき(インフォーム要件)は、輸出許可を申請しなければなりません。

大量破壊兵器キャッチオール規制は、カテゴリーA(旧ホワイト国)以外のすべての国と地域が対象です。

輸出管理に関する国際的な条約及び4つの国際的なレジームに参加し、自らキャッチオール規制を厳格に実施している国(26カ国)は、カテゴリーA(旧ホワイト国)に分類され、我が国のキャッチオール規制の対象から除かれます。

通常兵器に関するキャッチオール規制では、国連武器禁輸国・地域(アフガニスタン、中央アフリカ、コンゴ民主共和国、イラク、レバノン、リビア、北朝鮮、ソマリア、南スーダン、スーダン)が仕向地の時、インフォーム要件または用途要件に合致すると許可申請が必要です。

さらに仕向地がカテゴリーAと国連武器禁輸国・地域以外の場合は、インフォーム要件に合致する場合、許可申請が必要になります。

何が変わったのか
 
今回の輸出管理の見直しは、リスト規制対象品目の韓国向け3品目の運用見直しと、輸出管理の適用対象地域を見直して韓国の分類をカテゴリーA(旧ホワイト国)からカテゴリーBに変更するという二つからなります。
 
まず、レジスト、フッ化ポリイミド、フッ化水素の3品目がリスト規制の運用見直しの対象となり、韓国向けには個別許可となりました。
 
半導体製造用のフッ化水素は純度が高く、ほぼすべてが生物化学兵器関連のオーストラリア・グループに基づく規制の対象ですが、レジストとフッ化ポリイミドに関しては、一部の非常に高スペックなものだけがワッセナー・アレンジメントに基づく対象となります。

例えばレジストでは、極めて波長の短い紫外線を使うEUVリソグラフィ用のものだけが対象となります。
 
個別許可と言っても、出荷ごとではなく契約ごとの許可となり、許可の有効期間は六ヶ月で、この期間の船積みをカバーします。
 
許可のための標準処理期間は90日ですが、いずれの品目でも懸念がないことが確認されれば速やかに許可が下ります。
 
輸出許可を取るのは韓国企業ではなく、輸出する日本企業です。
 
最初は各種の書類の準備が新たに必要になりますが、二回目からは同じ手続きです。

カテゴリー見直しでは、韓国がカテゴリーA(旧ホワイト国)からカテゴリーBになります。

カテゴリーA(旧ホワイト国)の場合、リスト規制の対象品目について、「一般包括許可」と呼ばれる包括的な許可が与えられます。これは、比較的簡単な自主管理を行っている輸出者でも取得することができます。
 
しかし、カテゴリーAから外れるとすべての輸出が個別許可になるわけではありません。

包括許可には「一般包括許可」の他に、「特別一般包括許可」と「特定包括許可」という制度があります。この二つはカテゴリーAでなくとも使えます。
 
「特別一般包括許可」とは国際輸出管理レジームに参加している国向けの輸出が対象で、厳格な自主管理を行っている輸出者に付与されます。
 
「特定包括許可」とは継続的な取引関係にある輸入者に輸出している輸出者に付与されるものです。
 
ある程度の規模の企業ならば、「特定一般包括許可」や「特定包括許可」を取得しているはずなので、カテゴリーAでなくともいずれかを利用して包括許可で輸出ができます。
 
また、カテゴリーA(旧ホワイト国)の国は、キャッチオール規制の適用が免除されますが、カテゴリーAから外れると、キャッチオール規制が適用されます。
 
しかし、そもそもキャッチオール規制の対象は、大量破壊兵器や通常兵器の開発等に使われることを輸出者が実際に知った場合、及び経産省から許可申請をすべきというインフォームがあった場合ですから、キャッチオール規制が適用されるようになったと言っても、「実際に許可を取得しなければならない案件は極めて少ない」はずです。
 
今回の措置に関して、誤解と思い込みに基づく情報発信が多く見られました。
 
実際には、国際的なサプライチェーンへの影響はほとんどないと言ってもよいと思います。



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