イラン核合意
2019.07.03
イランの核合意を巡る問題で、ウラン濃縮がクローズアップされています。
ウランの濃縮は、核兵器あるいは原発用の燃料を製造するために、天然ウランに含まれる核分裂するウラン235の濃度を高めるために行われます。
固体であるウラン酸化物を気体の六フッ化ウランに転換し、遠心分離機で核分裂性のウラン235とそうでないウラン238を重さの違いを利用して、分離させます。
そして核分裂性のウラン235の濃度を高め、それを固体のウラン酸化物に再転換します。
民生用のウラン燃料のウラン濃度は3.7%程度なのに対して、兵器級のウランは90%近くまでウランを濃縮しています。
第二次大戦後、核兵器の製造につながるウランの濃縮と使用済み核燃料からプルトニウムを取り出す再処理を国際管理の下に置こうとする動きがありました。
しかし、冷戦が始まり、米ソを始め各国は、それぞれ濃縮と再処理を個別に始めてしまいました。
現在、世界の原子力発電用ウラン燃料の世界では、ドイツ、オランダ、英国の3カ国が共同保有するURENCOとロシア、フランス、中国の3カ国の4者がウラン濃縮の市場をほぼ独占しています。
URENCOは、ソ連が当時の西ドイツが単独でウラン濃縮を行うことに反対したために、核不拡散の観点から国際的な枠組みでのウラン濃縮が望ましいということで1970年に設立されました。
米国は、冷戦終了後、ウラン濃縮を行ってきたUSEC(US Enrichment Corporation)を民営化しましたが、USECは2013年に破綻し、今日、米国内で濃縮を行っている施設はURENCOが保有するものだけになりました。
現在、世界の民生用のウラン濃縮施設の能力を100万キロワットの原発何基分の燃料に相当するかで計ってみると
ロシア 220
URENCO 150
フランス 60
中国 60
日本 1以下
ブラジル 1以下
イラン 1以下
となります。
合計すると世界的なウラン濃縮の能力は100万キロワットの原発500基弱となりますが、世界の原発発電能力は400基程度しかないため、ウラン濃縮の価格はSWU(Separative Work Unit)あたり歴史的には$100だったものが、最近では$40まで下がっています。
そのため、今、新たに濃縮施設を建設してもコストを回収することはできません。近年、新たに濃縮能力を増やしたのは中国だけです。
イラン核合意(JCPOA)がイランに認めているのは、2025年までは年間5,000SWUまでのウラン濃縮能力とされています。
この能力の下で、もしイランが兵器級の濃縮ウランを作ろうとすれば約一年かかるとされています。
2026年以降、核合意の下でイランはウラン濃縮能力を年間100,000SWUまで増やすことが可能との見方があります。
これは、イランが保有する民生用原子炉の燃料を製造するために十分な能力ですが、兵器級の濃縮ウランの製造に1か月しかかからないとの評価もあります。
アメリカがイラン核合意は不十分だと主張する理由の1つはここにありますが、核合意賛成派は、イランのウラン濃縮に10年~15年間の歯止めをかけ、その間に恒久的な解決策を探る方が、イランのウラン濃縮を野放しにするよりもましだと主張してきました。
トランプ政権は、そうした主張に反対し、核合意から離脱しました。
日本政府はイラン核合意の当事者ではありませんが、この核合意を支持しています。
参考及び出典:フランク・フォン・ヒッペル プリンストン大学教授