皇室の危機を回避する
2016.10.19
我が国の皇室は、かつてない存続の危機に瀕している。
天皇陛下より若い皇族男子は、皇太子殿下、秋篠宮文仁親王殿下、秋篠宮悠仁親王殿下の3人しかいらっしゃらない。将来、悠仁親王家に男子がお生まれにならなければ、男系の皇統が絶えることになる。
たしかに我が国の皇室は男系を貫いてきた。しかし、男系天皇を維持することができるかどうかは、このままいけば確率の問題になってしまう。
一、男系の維持をいかに図るか
今後とも男系天皇を維持すべしという意見がある。しかし、言うのは簡単だが、現実は容易ではない。
今後とも、男系を維持するのが好ましいとして、いかにして男系を維持することができるだろうか。
ア 旧皇族男子を皇族の内親王殿下または女王殿下に婿入りさせる
戦後、皇籍離脱をした旧宮家の男子を現皇族の内親王殿下または女王殿下に婿入りさせ、宮家を創設し、その男子を皇位継承の対象とするという方法が考えられる。
特に、東久邇家には昭和天皇の内親王が嫁がれ、竹田家、朝香家、北白川家、東久邇家には明治天皇の内親王が嫁がれ、皇室との最近の縁戚関係もある。
しかし、内親王殿下、女王殿下にもご結婚の自由があり、ご結婚を強制することはできない。
また、旧宮家は1430年に即位した後花園天皇の弟貞常親王の子孫であり、それ以来、600年近く、現皇室との間に男系の繋がりはなく、その男系が皇室を継ぐことが国民的に受け入れられるだろうか。
また、仮に運よくこの方法で宮家が一つ、二つ増やせたとしても、継続的にできるわけではなく、男子が生まれる確率が多少高まるにすぎない。
イ 側室を復活させる
これまで男系が続いてきたのは、側室の存在が大きかったと言わざるを得ないが、国の象徴であり、国民に親しまれ、敬われる皇室ということを考えれば、また、国際的にみても、現代に側室を復活させるという選択は、現実的な選択肢とはなり得ない。
ウ 人工授精など科学的な方法を用いる
男系皇族の精子を保存し、人工授精するなどの科学的な方法が考えられなくもないが、卵子の提供や人工懐胎をどうするのか等、問題は多い。
また、そのような皇室に、皇后にふさわしい女性が嫁いでこられるか、疑問が呈されるだろう。
こうしたことを考えれば、男系天皇を維持すべしという議論は理解できるにしても、それを具体化するための現実的な、国民に広く受け入れられるような方法はどうするのだろうか。
現実的であり、具体的な方法の議論なしに、男系天皇の維持を主張することは皇室の存続を危うくする。
男系の維持を考慮するならば、国民に広く理解され、受け入れられる具体的な方法の提示が必要である。
二、男系、女系に関わらず皇室の維持を図るべき
男系の維持が困難であるならば、次善の策は、男系、女系に関わらず、皇室の維持を図るべきではないか。
そのためには皇室典範を改正し、長男継承を長子継承に改めるべきではないか。
その場合、親王殿下だけでなく、内親王殿下、女王殿下も宮家を創設し、継承順位に従って、天皇位を継承していくことになる。
たしかにこれまでの天皇家の歴史を変えることになるが、男系天皇を維持できない可能性が高く、その場合、皇統そのものが断絶することになり、その危機を回避するためには皇室のあり方を変えることもやむを得ないのではないか。
三、継承ルールの変更の議論を速やかに始める必要がある
今上天皇の生前退位の議論を優先し、継承ルールの変更を先送りすることはできない。
今上天皇が生前譲位されて上皇になられ、皇太子殿下が即位された場合、長男継承が続くならば、秋篠宮文仁親王殿下が皇太弟となられ、長子継承ならば愛子内親王殿下が皇太子となられる。
それまでに継承ルールの議論に結論を出すべきではないか。
悠仁親王殿下まで長男継承を続け、そこで皇室に男子がいなくなったからといって長子継承に切り替えるのは難しい。
内親王殿下も女王殿下もそろそろご結婚の話が出てもおかしくないお年頃である。
現在の皇室典範ではご結婚された内親王殿下、女王殿下は皇籍を離脱されることを考えると、悠仁親王殿下まで長男継承としてしまうと、その時には皇室の女子がいなくなってしまう可能性もある。
だから今上天皇の生前譲位までに皇位継承のルール変更をすべきである。
四、長子継承にするならば、天皇家の祭祀の変更が必要かどうか、確認する必要がある。
宮中祭祀の中には、新嘗祭や大嘗祭をはじめ、女性が祭祀を執り行うことができないとされているものがあると言われる。
しかし、その理由は、女性の生理や出産を穢れととらえる意識によるものであり、現代社会にはなじまない。
他方、宮内庁は、女性天皇が執り行うことができない祭祀はないと明言している。
長子継承にするならば、この点を確認し、必要ならば祭祀を変更する必要がある。
五、宮内庁を改組すべき
このままでは皇室の存続の危機が訪れることがわかっていながら、これまで無為無策に終始した宮内庁の責任は厳しく問われなければならない。
また、宮中祭祀や陵墓等の情報公開に後ろ向きで、皇室と国民との間に壁を作ってきたのも宮内庁に責任があると言わざるを得ない。
宮内庁を改組し、国事行為・公的行為等に関する事務を取り扱う組織、天皇・内廷、宮家の日常をお支えする組織、文化的、科学的な立場から天皇家の祭祀や歴史の維持を行う組織の三つに分割し、これまでの宮内庁の文化を一変する必要がある。
天皇陛下が、国民に対して語りかけられたお言葉は、皇室の存続に対する陛下の強い危機感のあらわれではなかったのか。
お言葉を受けての議論を、生前退位の議論に矮小化してしまうことは、皇室の存続を危うくすることにもつながりかねず、この機会に皇室の安寧と弥栄のための議論を、広く国民を巻き込み、行うべきである。