さあ、ちゃんとした年金の議論を
2016.09.05
日本経済の活性化のためには個人消費に力強さが必要です。
個人消費に力強さを取り戻そうとするならば、老後の生活に安心感を持てるようにしなければなりません。
そのためには年金制度の抜本改革が必要です。
現在の年金制度には、多くの国民が漠然とした不安を抱いています。
そしてそれは正しいのです。
現在の制度では、年金にマクロ経済スライドがかかり、実質的な購買力が減っていきます。
将来、年金がどれだけ生活の支えになるかわからなければ、年金に不安を抱くのは当然です。
マクロ経済スライドとは何でしょうか。
以前の説明を、ここで繰り返します。
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あなたが会長をしている自治会が、公民館で炊き出しをやることになりました。
大きな釜でご飯を炊いて、おむすびを握ります。
そして自治会のメンバーに全員、年齢順に並んでもらって大きなおむすびを二つずつ配っていきます。
しばらくして、あなたはふと心配になりました。釜の中のご飯が思ったよりもずいぶん早くなくなっていきます。
このままでは行列の最後までおむすびを配ることはできません。
あなたは配るおむすびを一つずつにしようかと思いましたが、行列の最初のほうの人たちがおむすびを二つもらっていたのをみんなが見ています。
そこであなたは配るおむすびの大きさを少しずつ小さくしていこうと考えます。
おむすびを握っている自治会の役員さんたちに、おむすびをだんだんと少しずつ少しずつ小さくしてくださいと頼みました。これでお釜のご飯はなんとか行列の最後までもつでしょうか。
このおむすびを小さくするのが「マクロ経済スライド」というやつです。
年金は、本来、インフレに合わせて金額が調整されます。1%のインフレの時に年金の金額を1%増やさないと実質的な購買力は1%小さくなってしまいます。
しかし、マクロ経済スライドが始まると、例えば物価上昇率が2%だったとしたら、年金の引き上げは2%-(スライド調整率)になります。
スライド調整率とは、はやくいえば、現役世代の人口減少率と平均余命の伸び率を足したものです。
名目の年金額は増えますが、実質的な年金の購買力は減ることになります。
こうしたマクロ経済スライドは、最新の年金再検証によれば2043年ごろまで、つまり今後、30年近く続くことになります。
マクロ経済スライドは、厚生年金、国民年金ともに適用されますが、国民年金のほうが大きく影響を受けることになります。
しかし、この「おむすびを小さくする」ことをやらなければ、行列の後ろのほうまでおむすびを配れないのです。
本来、このマクロ経済スライドはもっと早くから発動されることになっていましたが、実はデフレ経済では発動されないことになっていました。そのため、マクロ経済スライドは仕組みはあっても発動されませんでした。
つまりおむすびが大きすぎることに気がついていてもおむすびを小さくしてこなかったのです。そのため、お釜の中のご飯は、どんどん減ってしまいました。
そこで、デフレでもマクロ経済スライドを発動できるようにしようという議論があります。
その場合は、物価の下落に合わせて年金額が削減されると同時にスライド調整率分がさらに差し引かれることになります。
もちろん、そのためには法律の改正が必要です。
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今の年金制度は、次の世代の年金保険料が前の世代の年金を支える賦課方式と呼ばれます。
しかし、次の世代の人数が少子化で急激に減っていく中で、年金制度を現状のまま支えることはできません。
だからマクロ経済スライドの発動が必要になるのです。
しかし、それに頼りきりであれば、将来の年金は大きく価値を失うことになります。
だからマクロ経済スライドで時間を稼ぎながら、年金制度を抜本的に改革する必要があるのです。
厚労省は、年金制度が破綻することはないと言い張ります。
なぜ、そんなことが言えるかといえば、厚労省の年金破綻の定義が世の中と違うからです。
厚労省は、制度に基づいて年金が支給できていれば、年金額が月に一円になったとしても、それは制度がしっかりと維持されているといえる。だから破綻ではないといいます。
国民からみれば毎月一円の年金をもらってどうしろというのか、そんな年金は全く意味がない、つまりそんな年金制度は破綻しているではないか、と言いたくなります。
毎月一円の年金で、どうやって暮らせというのかと厚労省に質問すると、年金だけで老後が暮らせるように保障すると言ったことはない、それぞれが老後のために必要なことをしているというのが前提だ、などと答えてきました。
少子化で、次の世代の人数が少なくなる日本では、賦課方式ではなく、それぞれが将来のために年金の原資を積み立てる積立方式の年金制度に移行するべきです。
さらに、必要最低額は税金で保障する税方式の最低保障年金制度の導入も必要です。
厚労省は、マクロ経済スライドで年金の議論はおしまいという雰囲気を醸し出していますが、決してそんなことはありません。むしろ、この数年間、年金の抜本改革の議論が先送りされてしまったツケが大きくなってきました。
もう一度、年金制度、しっかり議論していきましょう。