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TPPと「ISD条項」
2011.11.25
TPPに関しては、いろんな議論があると思うが、なかには誤解に基づいた議論もある。
そのうちの一つが「ISD条項」に関するものだ。
「アメリカの陰謀で、ISD条項という危険な条項がTPPに入れられようとしている。これが入ったら、米国企業が日本政府を訴えられるようになり、経済主権が侵される。」とか、
「このISD条項のために、カナダ政府がNAFTAでひどい目にあった。」等という話がネット上に流布されている。
しかしこれは、「航空法のために震災時に自衛隊のヘリから物資を空中投下できなくて、被災者に物資が届くのが遅れた」等というネット上の都市伝説と同じような話だ。
( http://www.taro.org/2011/03/post-955.php )
正確にはInvestor-State Dispute Settlement(ISDS)条項とよばれるが、投資家が投資先の国家によって被害を受けた時に、協定に基づいて投資先の政府を訴えることができるという規定である。
この条項は、海外に投資している日本企業の利益を守るのに役立つので、1978年の日本エジプト投資協定以降に結ばれた25本の投資協定では、日本フィリピンEPAを除き、全てにおいて投資家対国家の紛争手続(ISDS)規定が含まれている。
たとえば日本マレーシア経済連携協定第85条。
どちらかというと対日直接投資が少ないため、外国企業から訴えられるということより、海外に進出した日本企業を守るために日本企業がこの条項を利用することになる。現実に、日本政府が訴えられたことはなく、日本企業が外国政府を訴えたことはある。
ちなみに最近の日本では、貿易黒字よりも投資収益の黒字のほうが大きいので、日本企業の外国への投資の保護は重要である。
2009年度の我が国の貿易収支は6兆5998億円の黒字だったが、日本企業が海外投資で得た収益を示す所得収支は12兆759億円の黒字だった。
また、2010年度には、貿易収支の6兆5070億円の黒字に対して、所得収支は11兆8386億円の黒字だった。
ネット上での議論は、政府による国有化のような直接収用だけでなく、政府による規制の導入や変更等による間接収用も訴訟の対象となるという主張だが、国有化に匹敵するような「略奪行為」がなければ間接収用にも該当しない。
また、TPPそのもので「政府が行うことができる規制」を規制しない限り、国内外の企業に等しく適用される規制はその国の政府が自国の法律に基づき、自由に行うことができる。
よくネット上で例としてあげられているNAFTAでのメキシコ政府が訴えられた例は、メキシコ政府が外資企業を差別的に取り扱ったケースであり、カナダの例も、規制が外国企業に一方的に負担を強いるものであっただけでなく、カナダ連邦政府の規制そのものが国内の手続違反だとして連邦政府が州政府に訴えられて敗訴している。
だから日本政府としてはTPPにこのISDS条項を入れるべく交渉すべきだが、オーストラリアのギラード政権が、今後、オーストラリアはISDS条項をFTAや投資協定に入れることを反対するとしており、予断を許さない。
というわけで、ISDS条項は、日本がTPP交渉に参加することを妨げるものではまったくない。