パレスチナ出張報告-2

2010.05.05

パレスチナ自治政府のアッバス大統領の招待で、パレスチナ(ヨルダン川西岸)を訪問する。

メンバーは、松本純代議士、世耕弘成参議院議員、鈴木けいすけ前代議士、信田智人国際大学教授、河野太郎、マゼン(河野事務所インターン)。

ヨルダン川西岸地域への日本の国会議員の訪問は極めて少なく、2007年に麻生外相が訪問して以来、国会議員の訪問はほとんど無かったそうだ。

私自身も2004年にアラファト議長を訪問して以来になる。

2004年にアラファト議長を訪問したときは、ラマラ全体がイスラエル軍に包囲され、周辺には戦車が取り囲み、アラファト議長が立てこもるようにして住んでいた建物も、一部、砲火で崩壊していた。

あれから6年になるが、今や大統領府は修復され、また、日本のODAで新しい大統領府が建設されていた。

日本から西岸を訪問するためには、成田-仁川-テルアビブという大韓航空を利用した空路が一番簡単だが、今回は、パレスチナのシアム大使の強いすすめもあり、アンマンから陸路をとり、日本のODAで建設されたヨルダン川のアレンビー橋を渡って入国するルートをとった。

イスラエル、ヨルダンの両者がヨルダン川の水を灌漑に使うため、ヨルダン川は最盛期の2%しか水がない。

聖書にも出てくる有名な川だが、軽く跨げそうなぐらいの小川になってしまっている。その結果、死海は毎年1mずつ水位が下がり、一部は完全に干上がって、南北二つの湖に分離している。

死海でぷかぷか浮いてみようと思うなら、死海が無くならないうちに訪れた方がよいかもしれない。

ヨルダン側には紅海の水を死海に入れようという計画があるそうだが、この地域は海抜下300mのところだ。もし海水が止まらなくなったら、ヨルダン渓谷一体は水面下300mに沈んでしまう!

ヨルダン川西岸地域では、治安と民政ともにパレスチナ自治政府が責任を持つエリアAと呼ばれる地域が、ラマラ、ヘブロン、ベツレヘム、ジェリコなどの主要都市とその周りに島のように点在する。そして島を取り巻く海にあたるところはイスラエルが治安、民政に責任を持つエリアCとなっている。

さらに主に南部の農地には、民政は自治政府だが、治安はイスラエル側が担当するエリアBと呼ばれる地域がある。

西岸地域の六割近い地域がエリアC、つまり治安も民政もイスラエルが担当する地域になっている。

パレスチナ側の治安組織はエリアA以外では活動ができない。そのため、我々の警備を担当するパレスチナ大統領府の特別警備隊は、それぞれの都市で我々をエリアAの境界線までエスコートする。そこからエリアC地域内は治安組織のエスコートはなく、次の都市に入るところでその都市の治安組織が我々のエスコートを開始する。

ヨルダン国境のアレンビー橋やエルサレムやクムランは事実上、完全にイスラエルの施政下だ。

実際に西岸に行ってみると、かなりパレスチナ人の人権が侵害されている現実がよくわかる。

テロ対策のために分離壁が必要だというイスラエル側の理屈もわからないでもないが、分離壁のほとんどは一義的な境界線として国際的に認められたグリーンライン上ではなく、パレスチナ側に深く入り込んでいる。

しかも、本来パレスチナ領であるはずの地域にイスラエル人が多数の入植地を造って、パレスチナ領を浸食している。

エルサレム周辺などには広大な、新興住宅地のような入植地も見られ、その非合法的に造られた入植地をイスラエル側につなげるために分離壁がパレスチナ側不覚に入り込んでいる。

エルサレムをはさんで北のラマラと南のベツレヘムは直線距離ではたいしたことがないが、エルサレムを取り囲むように巨大な入植地が張り出し、それを分離壁が取り囲んでいるため、ラマラからベツレヘムへは大きく迂回しなければならない。

あちこちでパレスチナ領内に大きく分離壁が張り出し、西岸内の南北の交通を遮断している。本来、五分で行けるところが三十分かかったり、チェックポイントを通らなければ通過できなくなったりしている。

家と畑の間に建てられた分離壁のために、家から畑に行くことができず、農業ができなくなってしまっている農家も少なくない。

パレスチナ国家の首都になる予定の東エルサレムは、もともとアラブ人の地域であるが、東エルサレムのアパートや住宅を極右のイスラエル人がアラブ人の居住者を追い出して不法占拠し、巨大なイスラエル国旗を掲げている「プチ入植地」がいくつも見られるようになった。こうした「入植者」をイスラエル政府は排除しないどころか、「入植者」の安全を守るために警察や軍が近くに張り付くということも見られる。

南部のヘブロンでは、街の中心にある小学校にイスラエル人が勝手に入り込み、占拠している。もともと二階建ての小学校の屋上にさらに二階分建て増しして、そこから近づくアラブ人に投石したりする。そして、この勝手に入り込んだイスラエル人を守るために、イスラエル軍が駐屯地を周りに造り、さらにこの地域と一番近いイスラエル人の入植地を繋げるために本来、街の目抜き通りであった道路がアラブ人通行禁止とされ、この地域と入植地までの間の通りの左右に壁が築かれる。その結果、ヘブロンの街は南北に完全に分断され、大きく町の外れまで迂回しなければ南北の行き来ができなくなってしまった。かつての中心商店街につながっていた路地は、すべて袋小路となり、客足が遠のき、市内の多数の商店は閉鎖されてしまった。

パレスチナ側の状況について、日本は、もっと強く国際社会の中でパレスチナの人権を擁護する立場を取るべきだ。

ユダヤコミュニティがない日本とイスラエルに対して特別な影響力を行使することができるアメリカが、中東和平に関してもっと役割分担をしながら、政策協調をしていくべきだ。

PLC(パレスチナ立法評議会)議員との会議では、PLC側から口々に、日本からのODAに対する感謝の意が述べられるが、その後に決まってなぜ日本はもっと政治的なプレゼンスを中東で強化しないのかという声が出る。

PLCメンバーだけでなく、県知事や市長といったパレスチナの政治家と話をしていると、たしかにODAは大切だと感謝されるが、ODAがその後の経済交流につながらなければ意味がないではないかという意見がどんどん出てくる。

西岸では、ベツレヘムやジェリコ、ヘブロンといった都市では商工会議所がかなり活発に活動しており、日本との貿易や投資を求める声が非常に強い。

たしかにパレスチナ市場は小さすぎて、それだけでは全く魅力がない。

しかし、ある企業が、パレスチナで商売をしている、パレスチナにプレゼンスがある、パレスチナ経済を助けているということは、その他の中東諸国での商売にプラスになるはずだ。

日系企業の中で、パレスチナ側となんらかの代理店契約をしている企業がゼロ、つまりイスラエル企業がすべてパレスチナ領内での代理店契約を持っていることに対して、パレスチナ側からは、なぜ一部の欧米企業のように代理店契約をパレスチナと結べないのかという声が強い。

難民キャンプのUNRWAの小学校を視察する。
非常にわかりにくいが、UNRWAは1967年以前の難民とその子孫を対象とする国連機関であり、1967年以後の難民はUNHCRが担当する。

なぜそんなややこしいことをするかというと、1967年以前の難民は、イスラエル建国で難民となったため、帰還権を主張できる。つまり、将来、イスラエル国内になってしまった元の居住地に帰還するか、帰還できないときは補償を受ける権利がある。

だから67年以前の難民は、西岸でも「難民キャンプ」に住み、UNRWAの運営する学校に子どもを通わせる。

もし、彼らが西岸に定住し、パレスチナ自治政府の建てた学校に子どもを通わせると、再定住、あるいは第三国定住したことになり、帰還権を喪失したものとイスラエルに見なされる可能性がある。

もともと67年以前に難民となったのは約70万人程度だが、すでに四世代目になり、UNRWAに登録されている帰還権を持つ難民の数は460万人になっている。この460万人だけを対象とするのがUNRWAである。

日本が、パレスチナ、イスラエル、ヨルダンと協働して実施しようとしている平和の回廊プロジェクトの現場を見に行く。

ヨルダン川西岸に農産物の加工工場をODAでつくり、アレンビー橋を経由してヨルダンに出し、そこから湾岸に輸出して販売するという計画だったが、どうやらうまくいっていない。

パレスチナの労賃は決して安くないし、水や電気の代金も高い。そのためパレスチナで加工しても、安くはなかなかならない。JICAのフィージビリティスタディでも悲観的な結果が出ている。にもかかわらず、工場予定地への取り付け道路の工事だけはどんどん進んでいる。しかも、片側二車線のまるで高速道路のような道路だ。

道路を造って、用地を造成して、さあパレスチナの投資家いらっしゃいと待つというのでは、うまくいくはずがない。まさにお役所仕事だ。これだからODAは実際には無駄になる。

どんな農作物を加工して、どこにいくらで販売するかというのは、もっと知識のある商売人を入れて計画をつくらなければ、まともな計画ができるはずがない。

日本のODAでつくられたジェリコの病院を視察する。日本側関係者が、「ODAでつくられた建物はその後、使われないものが少なくありませんが、この病院は十二年経ってもきちんと丁寧に使われています!」と胸を張ったぐらい、きれいに丁寧に使われていた。

やはりパレスチナの現状をもっと日本国内で知ってもらい、日本にできることをきちんとやっていく、主張すべきことを主張していくことが大切だ。もう一度、パレスチナ訪問団を出すことにしたので、ビジネス界からもメンバーを募集して、日本とパレスチナの経済委員会を立ち上げられるようにしたい。



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