カンボジア国道一号線の問題
2006.04.13
2004年10月13日号のごまめの歯ぎしり(法務省の一部ではごまはぎと略されているらしい)で、カンボジアの国道一号線の修復工事とADB(アジア開発銀行)の対応のいい加減さについて書いた。
ところが、このごまめを読んだADBの日本理事室の方からADBに対して改善の要求が出され、なんと国道一号線だけでなくカンボジアで行われている各種のインフラ整備案件に伴う住民移転の補償の見直しが始まった!(大変にありがとうございました)
ところが今度は日本の外務省とJICAが問題を起こしている!!
カンボジアの国道一号線を拡幅することにより、沿線の住民は移転を強制されることになるので当然に補償が行われる。
新たに引っ越したさきでこれまでと同様の家を建てるために必要な補償金額が支払われねばならない。
つまり、家を建てると減価償却が発生し、価値は低減していくが、立ち退き時点での価値を支払っても、その金額では元の家は建たない。もう一度元の家と同等の家を取得するためには、元の家を建てるのに必要な金額(再取得コスト)を補償しなければならない。
国道一号線の修復事業そのものはADBが融資するが、立ち退き補償はカンボジア政府の負担である。だからカンボジア政府は住民に対する補償を安くしたい。 値切りたい。場合によっては嘘をつきたい。ADBは自分が関与する事業で移転させられる住民が充分な補償を受けられるように監督する責任があるから、カン ボジア政府とは思惑が違う。
当初、カンボジア政府がADBに示した補償額の単価は
タイプ1(藁葺き) 25.77
タイプ2(木造) 68.90
タイプ3(コンクリ) 124.97
タイプ4(2階建て) 185.40 だった。
が、現地調査の結果、ADBが報告書を認めなかったため、カンボジア政府は修正をした。その際に、カンボジア政府は再取得コストではなく、減価償却した単価を記載した。
タイプ1 9.00
タイプ2 19.50
タイプ3 59.00
タイプ4 156.50
これをADBは見逃してしまったのである。その結果補償額は正当な金額を大幅に下回り、移転を強制された住民は、大いに困ったのである。で、ごまめを読んだADB理事室の指摘で単価がきちんとした金額に修正された。
ADBはタイプ分けを4種類よりも細かく分け、さらにきちんと現地調査をしてから補償単価を決めるという方針を明確にした。
世界銀行もADBの方針に足並みを揃えた。
で、問題はJICA、つまり我が外務省である(おい、外務省、JICAに責任転嫁するなよ)。JICAの補償単価は、ADBが見逃してしまったカンボジア政府の数値をさらに大幅に下回る!
カンボジア政府がJICA用に出してきた数値*(つまり、JICAは、なめられてるわけよ)に3%のインフレ率を四年分で12%の上乗せをしましたという奇妙きてれつな単価なのである。
(※JICAの基本設計調査報告書の23ページ参照)
どうもJICAはこれがADBの数字と同様だと思っていたフシがあるが、その後にADBが再調査をしているという指摘を受けてもこの数字を変更せず、ADBから直接指摘を受けているのにしらばっくれている。
しかも、ADBと世銀は再取得コストで補償するということを明確に方針として打ち出しているのに、JICAは減価償却後の金額を補償しようとしている。
つまりJICAが担当する区間の住民は充分な補償が受けられないことになる。これはJICAの環境社会配慮ガイドラインに明確に反することになる。
ADBはJICAに対して完全にあきれかえっているし、JICAは現地のNGOに対して、そんなことを言ってもカンボジア政府は払えないのだからなどと口走って、信頼を損ねているようだ。
もちろんカンボジア政府は補償額を低くしたいのだが、ADBはこれをきちんと説得したが、JICAは説得するどころかお先棒をかついでいると一部では思われているようだ。
しかも、現地や世銀、ADBではJICAはコミュニケーション能力が低いと(たぶん英語ができないということを失礼にならないように言っているのだと)..。
5月には国道一号線の修復のさらに大がかりな区間をODAで行うための閣議決定が予定されている。それなのに、外務省はこの問題はひたすらに隠しているだけで何ら対処していない。
大臣をはじめ副大臣、政務官にも話は上がっていないし、JICAでは緒方貞子理事長にどこまで話が上がっているのだろうか。
血税を投入して、相手国の環境を破壊したり社会に悪影響を与えたりしてはいけない。外務省がとっても忙しくてモニターができないのならば、ODAを減額するべきだ。