2004年9月25日号

2004.09.25

一泊で大阪に出張しました。
第13回日本組織適合性学会の市民公開講座でのパネリストを務めて、大阪千里ニュータウンにある国立循環器病センターで、心臓移植を待つ患者のみなさんにお目にかかりました。

国立循環器病センターでは、日本国内で行われた心臓移植の半分にあたる11例の心臓移植が行われている。
埋め込み型の人工心臓や外付け型の人工心臓をつけて移植を待つ患者の皆さんにお目にかかる。
埋め込み型といってもバッテリーや制御装置は体外に出ている。
一方、外付け型の人工心臓は大きな装置につながっていて、ポンプがお腹から血液を体内に押し込んでいる。カタカタカタというかなり大きな音がする。人工心臓をつけた若い女の子に音が気にならないかと尋ねると、彼女はにっこりと笑って、音がしていると安心するんですと答える。彼女は子供の時からの心臓病で、人工心臓をつけて八ヶ月になるという。
病棟には人工心臓をつけて三年になるという人もいた。三年間、ポンプを何度も変えながら移植を待ち続けている。「河野さん、僕はもういいから若い人が移植を受けられるように何とか頑張ってください」と言われるので、「何を言っているんですか。三年間待ったんだから、移植して、元気になりましょう」と声をかける。
人工心臓をつけて待っていた人のうち、九人はこのセンターで移植を受け、八人は海外に渡航して移植を受けた。
さらに八人は人工心臓をつけることによって体調が回復し、結果的に人工心臓なしでも暮らせるようになった。
1245日間も人工心臓をつけて頑張っていた患者を含め26人が既に亡くなられた。
15人がカタカタというポンプの音を聞きながら移植できる日をまっている。
ICUでは生まれて数日のうちに心臓手術をした赤ちゃんが何人も管をたくさんつけて頑張っていた。欧米では移植の対象になっているような病状の赤ちゃんもいるが、日本では法律が邪魔で赤ちゃんに移植をすることができない。

移植をすれば、心臓病患者の病状は回復し、かなり社会復帰を期待することができる。センターで移植を受けた11人のうち6人までは社会復帰をし、五人はリハビリをしている。
人工心臓、あるいは腎臓病の透析など移植を必要とするような患者にかかっている医療費は非常に高額になる。本人、家族の負担も大変だが、医療保険の負担も巨額なものだ。
移植をして病状が回復すれば、今度は免疫抑制剤程度の負担で済むし、社会復帰することができれば、社会に貢献することも可能になる。
金がかかるからと移植医療に反対する意見があるが、実際は移植しない状況のほうが負担ははるかに大きいのだ。
そして、この病院のICUで頑張っている赤ちゃんにとって、移植可能年齢を15歳から12歳に下げる法改正など何の役にも立たないのだ。

市民公開講座では、ポール・テラサキ博士や小寺良尚名古屋大学教授などとパネリストを務める。臓器移植と造血幹細胞移植の両方がテーマになったシンポジウムだったが、大変多くの方々が参加された。
臓器移植法改正案の提案準備をしているが、脳死に関しては「医」が責任を持って、「脳死が人の死」であるということをきちんと世の中に示してほしいと申し上げた。

組織適合性学会というのは何をする学会なのかと思う人がいるかもしれない。例えばこの学会の口演の一つは「四種類のHLAハプロタイプ(LKT3、AKIBA、COX、PGF)475kbに同定された1770個のSNPsの分布は、HLAクラスI遺伝子の正の淘汰圧に起因するヒッチハイキング効果がクラスI遺伝子領域内に存在する疾患感受性遺伝子を誘導することを示唆した」
ウァーオ!



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