2004年5月16日号
2004.05.16
今国会に提案されている著作権法の改正案に関して、誤解があるようです。この改正案が成立するとアメリカからの輸入盤のCDが止まるのではないかという懸念をもたれる方がいらっしゃるようですが、ご心配は要りません。
日本のコンテンツ産業の強化の一環として、知的財産権の保護をきちんと進めていく方向に動いています。今回の著作権法の改正もその一つです。
東芝EMIからもCDを発売している参議院議員でもあり歌手でもある「山本一太」というアーティスト(?)を例にしましょう。
日本で大人気の山本一太は中国市場に進出することにしました。しかし、中国の消費者の購買力は日本の消費者の購買力よりも小さいので日本並みの価格でCDを中国で販売することはできません。そこで、山本一太は、中国市場で販売するためのCDを中国で生産することにしました。中国のコストで生産したCDならば、中国の価格で販売しても利益を出すことが出来ます(もちろん円換算したCD一枚あたりの利益は日本で販売されたCDの利益よりは小さいですが)。
ところが、この中国生産、中国価格のCDが日本に逆輸入されると、困ったことになります。日本でならば、日本価格で売れるはずなのに中国価格のモノが流れてきてしまっては、日本価格のものが売れずに中国価格のものだけが売れてしまいます。当然、山本一太の利益は小さくなってしまいます。
今回の著作権法の改正は、こうしたことを防ぐための改正です。
一、日本国内で販売されているCDと同じモノが
二、先進国以外で製造販売されている場合(海賊版はどんなケースでもアウトですから除きます)
三、そして、発展途上国で生産されているCDに「日本での流通販売を禁止する」という表示がしてある場合、
この一、二、三を満たした商品を日本に輸入することをできなくするものです。
日本国内で販売されているCDと同じモノが中国や他の発展途上国で生産され(海賊版ではなく正規版として)、「日本国内での販売は禁止」ということが表示されていると、この改正により、中国や発展途上国産のCDの日本国内への輸入、販売は出来なくなります。
しかし、例えばアメリカで生産され、アメリカで販売されているマイケル・ジャクソンのCDを日本に輸入することにはまったく問題はありません。
しかし、著作権法では内外のアーティストを差別することは出来ませんからマイケル・ジャクソンがもし中国で日本版もあるCDの生産を開始し、その中国版CDに日本国内での販売禁止ということを表示すると、その中国版のマイケル・ジャクソンのCDは国内への輸入が禁止されます。
しかし、仮にアメリカで生産販売されているCDに日本国内での販売禁止という表示をしても、この改正の要件にはあたりません(この改正では先進国では同じような価格でCDが販売されるという前提に立っているので、先進国で生産されたモノとその他の国々で生産されたモノを区別しています)ので、著作権法的には日本への輸入及び販売をすることは出来ます。
例えば、タイで大人気のヤマモ・トイッチーターのCDは、タイで生産されたモノが日本に輸入されていますが、彼が日本版のCDの生産を始めて、タイで売られている自分のCDに「日本国内での販売を禁止」と表示をすると、タイ産のトイッチーターのCDは輸入できなくなります。つまり、日本のアーティストもアメリカのアーティストもタイのアーティストもみんな同じ権利が保障されることになるからです。
しかし、トイッチーターが日本版のCDを生産販売していないのに、自分のタイ産のCDに日本での販売禁止と表示をしても、著作権法的には日本に輸入し販売することは出来ます。(あとはビジネス契約の問題です。)
この改正に関していろいろな懸念があるようですので、衆議院の文部科学委員会での審議で、与党質問のなかで、この問題を取り上げ、河村大臣が誤解の内容に答弁をすることになっていますので、ご安心下さい。