2004年4月5日号
2004.04.05
害務省がまたやった。
ほとんど国務省の東京駐在所のノリである。
現行の日米地位協定では、勤務時間外に犯罪行為を犯し、米軍当局に逮捕された米軍兵士の身柄は、起訴と同時に日本側当局に引き渡されることになっている。
米軍が駐留している他の国との地位協定では、同様のケースでは裁判での有罪判決と同時に米軍が兵士の身柄を相手国に引き渡すということになっているところが多い。
しかも、日本では、米軍が身柄を拘束している兵士の取り調べを日本の警察が行う時には、米軍関係者の立ち会いは一切認められない。米兵の取り調べに米軍関係者が立ち会えないのは日本だけである。
そこで、これまで米軍と米国政府はやっきになって取り調べに立ち会わせろと要求してきた。
しかし、日本の刑事裁判は自白に依存しているため、法務省は取り調べへの立ち会いを断固拒否してきた。第三者が取り調べに立ち会ったら、被疑者も自白しにくくなるからである。
地位協定を改正すべしという我々や全国知事会その他の要求に対し、害務省は地位協定改定はパンドラの箱である、アメリカ側にも要求があり、一度交渉を始めたら、向こう側も色々と要求をしてくる。だから正面切っての改定ではなく、運用改善が最善の策だと害務省は言ってきた。
しかし、アメリカの要求の最たるものは、この取り調べへの立ち会いなのだ。
取り調べへのアメリカ軍の立ち会いを認めるならば、日本側はその代償としてこちらの要求する地位協定の改定をいくつか取れたはずだ。
しかし、それもせずアメリカが最も強く要求することをお盆に載せて差し出したのが今回の日米合意である。こんな馬鹿なことがあるか。
アメリカ政府は繰り返し、取り調べへの立ち会いを要求してきた。建前は通訳が正しく行われているかどうかを確認したいということで、弁護士の立ち会いの要求ではなかった。しかし、日本側は法務省が受け入れない。
アメリカからの要求は強くなる一方で、駐在所である害務省は本庁の国務省にこれ以上逆らうのは得ではない(もちろん害務省という組織にとって得ではないということ)という結論に達する。
アメリカからの要求に屈した害務省は立ち会いを認めるためのアリバイづくりを始める。法務省を納得させるためには立ち会う米軍は被疑者のために立ち会うのではなく、捜査側の人間として立ち会うのだという絵を描いた。
刑事的な裁判権は日本にあるが、米軍には軍という組織としての懲罰権があり、そのための捜査に寄与するためというでっちあげだ。
しかも、この妥協が唐突にならないために害務省は95年合意を持ち出す。95年合意は殺人や強姦といった重大な犯罪に関しては日本の起訴前の引き渡し要求を米軍は好意的に考慮するということになっている。この合意ができた時に、米軍の立ち会いや米軍側の捜査権についてさらに取り決めをするという合意はない。95年合意は95年合意で自己完結をしている。
それにもかかわらず害務省は、95年合意を円滑に実施するために今回の合意ができたと説明する。まるで、今回の合意は95年合意の積み残しであったかのように振る舞っているが、まったくのでっち上げてある。今回の合意は95年合意とは無関係なのだ。
地位協定改定の際にアメリカ側に切り札として提示するはずだったものを害務省は自らの保身のためにタダで差し出してしまったのだ。
役人の暴走を止めなかった外相、副大臣、政務官の罪は重い。
(まあ、外相ではどうにもならないから、副大臣、政務官の罪は重いと言うべきか)。