2001年3月6日号
2001.03.06
昔、野球のナイターというのは和製英語で、英語ではナイトゲームズというんだよと教わったことがある。それと同様にNLP(Night Landing Practice)というのも和製英語とまではいかないが、在日米軍・外務省・防衛施設庁製英語なのだろう。キティホーク以外の米軍空母のパイロットにNLPといっても通じないかもしれない。米軍で普通に使われる言葉はFCLP(Field Carrier Landing Practice) つまりフィールドで行う空母着艦訓練。
かつて米軍では、空母での離発着10万回に対して、300回の事故が起きていた。これを改善するための措置の一つとして、10日間ルールを初めとする対策が導入され、現在では、この事故率は2回を下回る程度まで大幅に改善された。
この10日間ルールというのは、空母が出港する10日前からその前日までの間に全てのパイロットは、このFCLPを行わなければならないというルールである。FCLPとは、昼間ならば八回のタッチアンドゴー(着陸しようとした飛行機の車輪が着地した瞬間にエンジン出力をあげ離陸すること)、夜は六回のタッチアンドゴーを一つのサイクルとして、最大3サイクル、つまり三日の訓練を行うこと。全ての訓練は、着地地点のすぐ横にあるブースにいるLSOと呼ばれるグループに採点されている。そして、LSOが合格点をつけたところでそのパイロットのFCLPは終了する。
硫黄島は、周りに照明が無く、騒音を気にする必要もなく、訓練には最適であり、厚木基地は、街の明かりの真ん中であるし、騒音防止の観点からかなり高い高度から急降下して来なければならず、実際の空母への発着の訓練としては、効果が薄い。
しかし、硫黄島でこの訓練を行うと、訓練終了後、硫黄島から機器を引き上げて横須賀を出港しようとしている空母に搭載するのに四日かかる。そのため出港の何日か前に硫黄島での訓練を終える必要があり、硫黄島でパイロット全員のFCLPを出港の十日前からの期間で終えることが物理的にできない。現状では、硫黄島でのFCLPは、出港の十日以前に開始されるため、訓練を硫黄島で最初に行ったパイロットは、出港までにもう一度、厚木でFCLPをやらないと10日間ルールをはみでてしまう。米軍は、その分を今回も厚木でやっている。しかし、今回のパイロットは、厚木での昼間のFCLPで合格したため、夜間の訓練はなかった。
今回のマスコミ報道では、この前段の説明がすっとんで、厚木基地でのNLPはなかったということだけが強調され、あるいはNLPはキャンセルされたという報道になり、ではNLPはいらないのか、という誤解につながりかねない。
同様に、米軍の兵士が犯罪を犯したときの身柄引き渡しについても、背景が報道されていないような気がする。米軍の兵士の身柄を引き渡すことには、アメリカ側はあまり問題がない。しかし、アメリカは身柄を引き渡した後、きちんと弁護士をつけることを要請する。今回のグリーンビルの艦長のことをみても、それがアメリカ式だ。しかし、日本の現在の犯罪捜査のやり方はとにかく自白させることが大事だから、取り調べに弁護士が付いていては、捜査当局、検察は、困ってしまう。だから、起訴前の身柄引き渡しに関しては、外務省と法務省、警察庁の意見が一致しない、いわば、国内の問題の要素が強い。捜査する側にしてみれば、身柄は米軍が預かっていても、きちんと取り調べにつれてきてくれれば、それで十分、というか、そのほうがありがたいのかもしれない。そのへんの背景説明が無く、政府がアメリカに対し地位協定の改定を要求するとかしないとか、という報道では、やはりミスリードになってしまう気がする。
数年前に、やはりハワイだったと思うが、米軍と自衛隊の共同訓練で、標的を引っ張って飛んでいた米軍機を自衛隊が誤って打ち落とし、乗員が全員即死する事件が起きている。日本の駐米大使がホワイトハウスにすっとんでいって謝罪をしたが、クリントン大統領は、実戦でそうしたことが起きないための訓練だから、と全く問題としなかった。えひめ丸と違って、軍人、訓練での事故であるが、日本側の原因で米軍の軍人が死亡した事件については、あまり報道がなかったような気がする。
日米の関係を強化していくためにも、政府当局だけでなく、国民に広く安保に関わる事実を知らせ、議論しながら、理解を深めていく必要があると思う。その一環として、マスコミにきちんとした報道をしてもらう努力をしていくことの大切さをもっと重要視すべきではないか。