マスコミの矜持

2014.09.11

二年前に「共謀者たち」という本を牧野洋さんと共著で講談社から出しました。出版時期が総選挙と重なり、広告もなく静かな発売になり、自民党の政権復帰という大ニュースもあり、あまり話題にはなりませんでした。

その本の中で、発表が決まっていることを数日前にスクープするのは正しいジャーナリズムではないということを訴えました。

つまり、発表の前にスクープするということは、リークをもらわなければならないわけで、その情報源と深い関係を築いておく必要があります。そしてその情報源から「信頼」できる記者、つまり情報源にとって悪いことをしない記者であると思われなければなりません。

ということは、その記者は、その情報源が悪いことをしても、それを記事にすることができなくなります。取材対象を批判的に見るのではなく、取材対象と同一化していかなければリークをもらえないのです。

それはジャーナリストとしてあるべき姿ではないというのが我々の主張でした。

新聞社であれテレビ局であれ、発表物を数日前にスクープして記事にすることを評価するということは、自社のジャーナリストに対して、批判的な立場を忘れ、取材源とグルになれと言っているのに等しいのです。

もちろん政府であれ、企業であれ、個人であれ、取材対象は、リークをちらつかせて、取材に来るジャーナリズムをコントロールしようとします。それは広報戦略の一環であり、間違ったことではありません。

そういう状況下で、ジャーナリズムがどう行動するかが問われるのです。

本来、発表されないもの、隠されているものを調査し、報道することこそジャーナリズムとして評価されるべきで、情報源からリークをもらって記事にすることを評価していけば、ジャーナリズムは死んでしまうと、我々は訴えたのです。

今回の内閣改造に関しては、驚くほど事前に記事が書かれました。そしてその確度はかなり高かったのです。

閣僚を任命するのは首相です。内閣改造に関する情報の出どころは決まっています。

官邸からのリークをもらい続けようとすれば、官邸との距離感はおのずと決まっていきます。

9月3日に発表されるものを数日前に書くために、失うものも大きいはずです。

手元にある産経、読売、朝日、東京の各紙の一面の見出しを日を追ってみてみましょう。

「」で書いたのは、記事の中の情報です。

まずは最も記事の多かった産経新聞から。

産経新聞
8月26日
安保相、江渡氏で調整
岸田外相は留任へ

8月28日
石破氏地方創生相の方向
大島氏 復興・環境相で調整
小渕氏、党三役も

8月29日
石破氏、地方創生相受諾へ
「小渕氏の再入閣が検討され」
「太田国交相の留任の見通しが高まっている」

8月30日
石破氏が入閣受諾
公明・太田氏は国交省留任

8月31日
西川氏 農水相起用へ
拉致担当相は山谷氏

9月2日
政調・稲田氏 総務・二階氏
松島氏は入閣
「塩崎元官房長官も入閣し」
「下村文科省は留任する見通し」
「党役員人事では高村副総裁の留任も固まった」

9月3日
幹事長に谷垣氏
経産 小渕氏 復興 竹下氏
首相を含め18人の閣僚ポストと党4役を顔写真付きで掲載

 

次に記事の多かった読売新聞。

読売新聞
8月28日
拉致問題相 山谷氏起用へ

8月30日
石破氏 重要閣僚に 地方創生相など軸
「太田国交相を留任させる方針を確認した」

8月31日
小渕幹事長で調整
防衛・安保相に江渡氏
「山口俊一衆議院議員も入閣させる方向」
「谷垣法相を総務会長等の党要職で処遇することも検討している」
「西川公也衆議院議員を農相に起用する方向で調整している」

9月1日
高市経産相で調整
竹下氏も入閣の方向

9月2日
塩崎、大島氏 入閣へ
総務・二階、政調・稲田氏
「地方創生相に石破氏、安保に江渡氏、農相に西川氏、拉致担当相に山谷氏を充てる」
「高市政調会長を経産相に起用する方向」
「幹事長人事は小渕氏の起用を検討したが見送られる方向」

9月3日
幹事長に谷垣氏
厚労・塩崎氏 経産小渕氏
首相を除く17人の閣僚ポストと党三役の顔写真を掲載

 

記事の少なかった朝日新聞。

朝日新聞
8月29日
石破幹事長、入閣へ

9月1日
小渕氏、党三役か閣僚に
「新設の安保・防衛相に江渡氏を充て、地方創生相には石破幹事長を据えることを決めた」
「大島氏を復興相とすることで調整に入り、稲田行革相を引き続き閣僚か党三役に起用。高村副総裁は留任させる」

9月3日
自民幹事長に谷垣氏
経産相 小渕氏 総務相 高市氏
首相を除く16人の閣僚ポストとポスト未定で有村氏を掲載
谷垣幹事長の写真と党4役を掲載

 

そして、まったく内閣改造に関する記事を一面に載せなかったのが東京新聞です。

東京新聞
9月3日
主要6閣僚留任
安倍内閣きょう改造

そして情報を出した側の上手さも光ります。大小の差はありますがそれぞれ各社が少しずつスクープをものにしたのです。自社もスクープをとれるかもしれないという思いが、メディアをすり寄らせたのです。

改造が行われる9月3日の朝刊には、望月義夫環境大臣以外の閣僚リストをほぼ各紙が一面で載せていたにもかかわらず、東京新聞の一面は6人の主要閣僚が留任としか書きませんでした。

東京新聞の官邸との距離の取り方がよくわかります。

そして今回、メディア各社が気にしていたのはNHKでした。NHKが流せばそれは間違いないという評価でした。NHKと官邸との距離感もよくわかります。

安倍政権とメディアとの距離感を理解したうえで、メディアを選んだり、そのメディアの流す情報を評価するということが国民にも求められるようになりました。

国民もメディアをきちんと評価してつきあうということが大切な時代になってきました。



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