いわゆる「女子枠」について

2026.09.25

  • 東京科学大学が2024年から設けている女子枠と一般枠で合格最低点に大きな差があったという情報が出たことにより、「性別による逆差別ではないか」という批判が出ている。ただし、東京科学大は、「2025年度は最低点・平均点とも総合型選抜女子枠合格者が一般選抜合格者を上回り、2026年度は最低点が同程度、平均点は女子枠合格者が上回りました。」という声明を出している。
  • 名古屋工業大学は1994年から約30年間女子枠を設けているが、特に批判はなく、また、現在、地方の大学の理数系学部が定員割れしており、現在の各大学の女子枠を2倍にしてもトータルで現行の理数系学部の定員内に収まることから、理数系の学部を志望する学生は、大学を選ばなければ理数系の学部に入ることができるので、「女子枠問題」は具体的には東京科学大学をはじめとする一部の国立大学の女子枠問題と言える。
  • 現行の定員に追加して「女子枠」を設ければ、男子が逆差別されているという議論にならないが、文科省が首都圏を含めた国立大学の定員を抑制し、なおかつ女子枠を推奨しているため、定員の一部を削って女子枠を設定することになる。文科省が、定員の維持と女子枠の設定のどちらに重点を置くのかを明確にする必要がある。
  • 東京科学大学の場合も、定員の外に女子枠を追加することで逆差別ではないかという批判に対応することができる。
  • ただし、女子枠を設けることの目的は何かを明確にして、いつまでそれを続けるのか、その成果を検証するために、どんなデータを取って、どんな分析をするのかをきちんと公表するべきである。
  • 性別をことさら意識させることで、本来の力を発揮できない効果が知られている。女子枠がスティグマとなり女性学生の力を発揮する妨げにならない設計が必要である。

 

日本は、OECD加盟国の中でも理数系分野の高等教育機関の入学者に占める女子の割合が最低になった。OECDによる国際学力テストPISAによれば、日本の15歳の男女の理科の成績は国際的にもトップクラスであり、理数系の女子の割合の少なさは成績が原因ではない。

日本では、短大まで含めた高等教育機関の入学者に占める女子の割合は49%と、すでにOECD加盟国の中で最下位に近いが、大学進学率は、2023年でも学部で約6%、大学院で約9%、男子が高くなっている。成績では男女に差がないにもかかわらず、現実に理数系への進学に大きな差があるのは、環境要因によるところが大きい。環境要因によって、進学に関する機会の平等を日本の女性が失っていることを社会全体として是正していくことは急務である。大学の学部で物理学を専攻する女性の割合は14%にとどまっており、日本の高校二年生以上で物理を選択している女子生徒は非常に限られているところから、早いうちから、できれば中学校段階から、環境を変えていく必要がある。さらに、日本では、娘の専攻分野の選択に母親のステレオタイプが影響を及ぼしているという研究もあり、こうしたことについても具体的な対策を打つ必要がある。

日本では、なかなかデータに基づいた女子枠に関する研究がないが、各国で行われてきた先行研究を参考に、女性も理数系の高等教育機関に進学し、理数系の職に就くことが当たり前になる社会を作っていく必要がある。

大学の理数系学部の女子枠に関して、諸外国に於ける入学枠の研究を参照してみると、諸外国では主に「人種」が研究の対象になっているが、その中でも女子枠に関する研究がある。

入学枠の最も直裁的な利益は、通常なら入学できなかった学生が、より選抜性と質の高い大学へ進学できるようになること。しかし、入学時の学力が周囲の学生に比べて大きく劣る場合、授業についていけないことによる不利益の方が大きくなる。質の高い大学に行ける利益と本人の学力にあった大学に行く利益のどちらが大きいかは、学生の入学前の学力、大学の選抜性、そして成果指標によって変わる。

少数の入学枠の場合は、利益の方が大きいが、枠が増えるに従って不利益の方が大きくなる可能性がある。この最適解は、0か100かではなく、その中間に存在する。

不利益と利益は、単純な「学生の能力不足」だけから生じるのではなく、大学と学生の持つ情報の非対称性と、それを学生にどう伝えるかという問題と考えられる。

理数系学部は、数学や科学の前提知識を累積的に使うため、基礎段階で周囲との差が大きいと上位科目でさらにその差が拡大しやすいため、 学生にとって不利益になる可能性が大きい。

90年代後半のカリフォルニア大(UC)のデータを用いたArcidiacono, Aucejo & Hotz (2016, AER)の研究では、理数系を志望するマイノリティの学生をアファーマティブアクションによって、偏差値の高い大学に進学させることは、本当に理数系人材を増やすのか。それとも、本人の入学前の学力とのミスマッチによって、理数系からの離脱を増やしてしまうのかを調べている。

UCにはバークレーやUCLAのような非常に選抜性の高いキャンパスとサンタクルーズ、リバーサイドのように比較的選抜性が低いキャンパスがあり、同じUCという大学システムの中で、より選抜的なキャンパスとそうでないキャンパスを比較している。結果は、マイノリティの学生の多くは入学時には理数系を志望しているものの、実際に理数系分野での学位を取得する割合は低く、文系に転じたり、UCではない大学を卒業したりしている。選抜制の高いキャンパスのほうが、マイノリティとそれ以外の学生の入学前の学力の差は大きく、入学前の学力が同程度のマイノリティの学生同士で比較すると、選抜制の高いキャンパスに行った学生の方が理数系を卒業しにくいことが明らかで、理数系では大学の選抜性と学生の入学前の学力の関係が特に重要という結論になった。つまり、入学前の学力が高いマイノリティの学生は選抜性の高いキャンパスに行くことにより教育の純収益率を高めるが、入学前の学力の低いマイノリティの学生は選抜性の高いキャンパスに行くほうが純収益率が低く、学力の低い学生については、アファーマティブアクションは、不利益が利益を上回る。

ところが、この結果は理数系分野には当てはまっても、非理数系の学部には当てはまらない。文系の場合は、入学前の学力に関わらず、選抜性の高いキャンパスに入学するほうが教育の純収益率が高くなる。つまり不利益は「大学一般」の現象ではなく、理数系のように前提知識の累積性が強い分野で特に大きい可能性がある。このことは非マイノリティの学生にも当てはまる。

理数系学部に進学する学生が、大学入学時の自分の学力が、卒業できるかどうかに影響しているということを、十分に理解しないまま進学先を決めている可能性がある。特に学力の低い学生ほど楽観的で、入学前の学力が大学入学後の成績に与える影響を過小評価する傾向があるという研究もある。このため大学側から学生に、入学時の学力水準ごとの4年で卒業できる確率を知らせることが、学生にとって利益を最大化できる可能性がある。そうであるならば、マイノリティの学生が理数系を卒業できるかどうかは、大学入試よりもそれ以前の情報の開示にある可能性が高い。

2023年6月29日に連邦最高裁が、ハーバード大学とノースカロライナ大学の入試制度を違法と判断したため、最近になって1990年代後半から存在するパーセントプランが再び注目されている。例えば、テキサストップ10パーセントルールは、高校内の上位10%に入れば、SAT(大学共通試験)の成績などに関係なくテキサスの州立大学への入学を保証する制度。テキサスではそもそも進学する高校が人種や所得で自然と決まってしまっているため、どの高校からでも上位10%が進学できるというルールにすれば、黒人やヒスパニックの多い高校からも必ず州立大学に進学者を出すことができる。この方法ならば、人種を前面に出して入学枠を作らなくともどの人種からも入学者を出すことができる。カリフォルニアにも同様のルールがある。ただし、この手法も不利益を生じさせるとの見方もある。

「女子枠」をより直接的に扱った研究としては、インドのある州の215校の工学系大学(engineering college)のカーストに加えて女性に対して明示的に枠を確保する制度についての研究がある。この州の制度では、工学系大学の定員の80%が州政府の共通入試制度によって配分され、一般入試の3分の1が女性枠となっている。また、カーストについても枠が設けられ、各カーストの定員の3分の1が女性枠とされている。ただし「女性は必ず女性枠で入る」という仕組みではなく、女性が一般枠で合格できれば女性枠は消費しない。また、より志望順位の高い大学の女子枠に空きがあれば、それを使ってそちらの大学に入学することができる。つまり、一般枠に加えて女子枠を使うことができる仕組みになっている。

この研究で用いたデータによると、大学入学前の学力は男女でほとんど差がないにもかかわらず、工学系大学の受験者は女子の方が男子よりも少なく、また、男性と同程度の学力の女子が工学系大学を志望していない。215大学は共通カリキュラムを使っており、また、大学一年終了時に外部で採点される試験を受ける。学生の高校時代の成績、大学一年終了時の外部試験の成績と4年間で卒業したかどうかを追跡できた11万人のデータを用いて分析されている。

それによると、女子枠は、女子枠という制度がなければ工学系大学に進学しなかった学生を大学へ進学させていることがわかった。女子枠は、特にカーストの低い、社会的に不利な女性が工学系大学に進学するかどうかに大きく影響している。第二の発見は、女子枠は、女性がより「質の高い大学」(入試成績上位者から人気のある大学ほど質が高いとみなす)に進学する確率を高めている。第三の発見は、女子枠の恩恵を強く受ける女性ほど、大学入学後の成績の改善率が高く、また、卒業率にも差がなかったため、女子枠によって不利益が生じるということはなかった。また女子枠の恩恵を受けた学生は、電子工学、情報工学、コンピュータサイエンスなどより競争的な専攻を選ぶ割合も高くなっており、あまり競争的ではない専攻を選んだことによって卒業率が維持されていたのではないと結論づけている。この結果、女子枠による利益が不利益を上回ったと考えられる。

また、女子枠による定員制約によって、実際に5,702人の男子が工学系大学に進学できなかったことがわかった(なお、制度対象外のカースト上位の女性も上位カースト(Open)の女性1,053人も同様に進学できなくなったと推計されている)。更に、進学できた男子にも、より質の低い大学に進学し、その結果大学入学後1年後の学力が低下したものがいることがわかった。当たり前なことながら、女子枠は、その恩恵を受ける女子生徒にはプラスだが、女子枠の対象外である男子生徒には不利益になっている。  

ただしこのインドにおける研究は、純粋な「女子枠」ではなく、「女子+カースト枠」を対象としていることに注意が必要。

チリでは、2024年度入試から導入された理数系分野の女子追加枠が設けられ、その効果を分析した研究がある。この研究は、女性枠が、機械的な枠の追加による合格数の増加という効果だけなのか、それとも、女子枠が出来たことにより、「この大学・学部なら自分にもチャンスがある」と女性が認識して出願行動や志望順位そのものを変える行動変容につながったのかまで分析した。

2023年時点でチリの理数系の女子比率は34%未満で、工学系では30%未満、コンピュータサイエンスでは20%未満。一方、大学全体では女性が約55%を占めているため、「女性が大学に行かない」のではなく、専攻選択の段階で理数系を女性が忌避している。そこでチリ政府は、2024年度の大学入試から女子追加枠を導入。国が実施する入試に参加する45大学のうち39大学が参加し、410の理数系プログラムに、通常定員に加えて2,358席の女性追加枠を設定した。各大学の参加は任意で、対象にできるのは科学技術分野のみ。女子追加枠は各プログラムの通常定員の20%までだが、これは既存定員の一部を女子に割り当てるのではなく、通常定員に女子枠を追加する。したがって、たとえば通常定員100人の工学系プログラムなら、最大20人まで女性専用の追加定員を設け、定員120人になる。入試では、まず男女を問わず通常定員まで成績順に選抜し、その後で通常入試では届かなかった女子を追加合格させる。

この制度が導入された結果を調べると、用意された2,358席分に対して、実際に女子追加枠を使って入学した女性は831人にとどまり、利用率は約35%。また対象プログラムの約49%では女子枠が1席も使われず、すべての女子枠が埋まったプログラムは21%だった。つまり女子追加枠を作れば、自動的にその分だけ女子学生が増えるわけではなかった。女子追加枠のある理数系プログラムに志望を出していて、最低点を満たせなかったケースは10%未満だった。このため、空席が多い主因は、「対象となる女性の学力が足りなかった」のではなく、女性が別のより志望する進学先に合格していたためと考えられる。

この研究では、2024年に女子追加枠を導入した研究プログラムを対象グループ、導入しなかったプログラムを比較グループとして、女性比率が政策導入前後でどの程度変化したかを調べた。対象プログラムでは女性比率が2から4ポイント増えたことが、しかし、理数系全体の女性は増えていなかった。これは、女子が、主として女子枠なしの理数系プログラムから女子枠ありの理数系プログラムに移動していたためだった。つまり非理数系志望から理数系志望に移動したのではなく、理数系プログラム内での移動が生じた、つまり、女子枠の存在によって女性の出願行動そのものが変わったことが示された。

女子追加枠が出来た後、女子追加枠のある理数系プログラムを第1志望または第2志望に置く女子の割合が2ポイント上昇した。つまり女子追加枠の存在を知った女性が「ここなら自分にもチャンスがある」と考えて、理数系プログラムをより上位に志望するようになった可能性がある。実は、第一志望だけを見ると統計的に有意ではなく、第1+第2志望にすると統計的に有意に増加する。これは本命というよりも、滑り止め、つまり合格可能性を考えた安全な選択肢として上位に置いた可能性がある。

また女子追加枠のある選抜性の高い大学の理数系プログラムでは、女子追加枠のない同等に選抜性の高い理数系プログラムに比べて、一般入試による女性比率が3ポイント上昇した。もしも女子追加枠で合格した女性が増えたのなら、一般入試による女性比率は増えないはずだが、女子追加枠を導入したことで、元々実力のある女子が女子枠のある大学をより上位に志望し、一般入試で合格したということになる。この意味で、女子追加枠は「合格基準を緩める政策」であるだけでなく、能力の高い女子を女子枠のある大学・プログラムへ誘引する政策として機能している可能性がある。

この研究の含意は、女子追加枠が一般入試では不合格になるような女子を追加で合格させるということに止まらず、女子追加枠が女子の合格確率を高めるというシグナル効果を持ち、女子の志望順位を変え、一般入試で合格するような能力の高い女子を増やす効果もあるということを示唆している。

女子比率の上昇は、特に比較的親の所得が高い層、公立学校出身者、偏差値の高い大学への進学者で顕著に見られるという異質性がある。

この研究は、女子枠で入学した学生が不利益を被るかどうかは調査していない。女子追加枠が導入されたのが2024年度入試であり、その後の追跡調査のデータが存在しないからだと思われる。

一方、日本のデータを用いた論文には、上記のような海外の論文とは異なり、女子枠がもたらす因果的な効果を検証した論文は見当たらない。

日本におけるエビデンスは限られているが、名古屋工業大学が1994年から約30年間実施してきた女子推薦入試について、長期時系列データを記述的に検証した論文がある。名古屋工業大学では、機械工学科の女子学生が非常に少なく、1994年度入試から女子のみを対象とする推薦入試を導入した。導入前は定員160人に対して女子入学者はわずか0から2人程度。そこで1994年度から10人の女子推薦枠を設けた。

1994年に女子推薦10人を導入すると、女子入学者が一気に10人を超え、その後、女子推薦枠を15人、20人と拡大するにつれて、女子入学者も増加し、女子推薦入学者だけではなく、一般入試で合格して入学する女子も徐々に増えている。機械工学科に女子が増えたことで、女子トイレや更衣室など大学内の環境整備が進み、他学科にも女子が入りやすくなった可能性を指摘している。女子推薦入学者のGPAは低い(その他の入学者と比して、統計的に有意な差があるかどうかの検定はされていない)ものの、「全体的にその差はそれ程大きいものではなく、前期日程で合格して入学してくる学生の成績と遜色ない成績 」と評価している。一方で、機械・電気工学に推薦で入学した女性は、学部には入るものの大学院に進まない傾向があり、最大で男子との間で60ポイントくらい差がある。

ただし、この30年間に日本全体で生じた女性の大学進学率や就業の増加などの影響が考慮されていない。

経済産業研究所(RIETI)で研究活動を行うGender Inequality Study Team:GIST(ジスト)のメンバーを中心に議論を行った際に提供された海外を中心とする既存研究や資料を参考にした。当日の参加者は、石倉秀明(山田進太郎財団D&I)、打越文弥(シンガポールマネジメント大学)、為末大(東京大学)、中室牧子(慶應義塾大学)、中麗子(シカゴ大学)、横山広美(東京大学)。



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