原発再稼働は電力会社の経営問題に過ぎない
野田内閣は、なぜ、原発を次々と再稼働させようとしているのか。
決して電力が不足するからでも電気料金が高騰するからでもない。
再稼働させないと電力会社の経営が破綻に直面するからだ。
「原子力発電施設解体引当金」という制度がある。平成元年に、運転を終了した原発は廃炉にする、ということが決まった。(それまでは決まっていなかった!)
それにより、各電力会社は、原発の廃炉に必要な金額を毎年、年度末に一括して引き当てをすることが決められた。ただし、毎年の引当金の金額は、それぞれの原子炉が運転を開始してから運転を終了するまでの間に発電するであろう総発電量に対して、それぞれの年に発電した電力量に応じて積み立てる。
想定総発電電力量=
出力x40年x365日x24時間x設備利用率
ただし、計算上設備利用率は76%とされる。(現実の稼働率はもっと低い)
総見積額=解体費用+処理処分費用(3兆円/10社:54基)
引当額=
総見積額x(累積発電電力量/想定総発電電力量)-前年度残高
つまり、稼働率が低い原発は、本来引き当てるべき引当金よりも、年度末に引き当てる金額のほうが少なくなる。だから、問題が大きい原発ほど、40年を超えて稼働させないと、引き当てが過小になり、廃炉にするときに損失を計上しなければならなくなる。
ほとんどの原発は、稼働率76%を下回っているので、40年で廃炉にすると、引き当てが足らなくなり、電力会社は損失を出すことになる。だから40年での廃炉を電力会社はむやみといやがる。
それぞれの原発が廃炉にいくら掛かるかは、使用している金属やコンクリートの量などに処分単価を掛けて算出されている。
一番安いのが関電の美浜一号(34万kW)の318億円、一番高く見積もられているのか浜岡五号(138万kW)の844億円。
これが正しいかどうかは検証が必要だ。
各電力会社の23年度末の原子力発電設備残存簿価から廃炉のための引当金以外の引当金等を除いた金額をみると
北海道 2581億円
東北 3041億円
東京 5702億円
中部 1952億円
北陸 1886億円
関西 3105億円
中国 680億円
四国 994億円
九州 2266億円
日本原電1751億円
九電力22207億円
十社 23958億円
それぞれの電力会社の23年度末装荷核燃料簿価(原子炉内の核燃料の簿価)と完成核燃料簿価(原子炉以外に持っている核燃料の簿価)は
装荷核燃料簿価 完成核燃料簿価
北海道 186億円 203億円
東北 347億円 78億円
東京 1316億円 446億円
中部 400億円 192億円
北陸 262億円 39億円
関西 953億円 800億円
中国 138億円 431億円
四国 258億円 125億円
九州 840億円 280億円
日本原電185億円 214億円
九電力4700億円 2594億円
十社 4885億円 2808億円
各電力会社が引き当てるべき総額と23年度末までの引当金額、再稼働せずに廃炉にした場合の不足額は
必要総額 23年度末引当金額 不足金額
北海道 1376億円 557億円 820億円
東北 2204億円 699億円 1504億円
東京 8567億円 4534億円 4031億円
中部 2332億円 904億円 1428億円
北陸 1220億円 272億円 948億円
関西 5278億円 3818億円 1460億円
中国 991億円 707億円 284億円
四国 1342億円 936億円 407億円
九州 2962億円 1938億円 1021億円
日本原電1623億円 1214億円 409億円
九電力26275億円14370億円 11903億円
十社 27898億円15584億円 12312億円
廃炉を決定した場合に各社が損失として計上するべき金額、つまり(引当金不足額+完成核燃料簿価+装荷核燃料簿価+原子力発電設備残存簿価から廃炉引当金以外の引当金を除いた金額の合計)、各社の23年度末純資産、その差額(マイナスは債務超過)
損失合計 純資産 差額
北海道 3790億円 2797億円 -993億円
東北 4970億円 4769億円 -201億円
東京 11495億円 5274億円 -6221億円
中部 3972億円 13447億円 9475億円
北陸 3135億円 3197億円 62億円
関西 6318億円 11835億円 5517億円
中国 1533億円 5146億円 3613億円
四国 1784億円 2830億円 1046億円
九州 4407億円 7667億円 3260億円
日本原電2559億円 1626億円 -933億円
九電力41404億円 56962億円 15558億円
十社 43963億円 58588億円 14625億円
ちなみに23年度の十社の売上高合計15兆5000億円、経常利益-1兆2000億円、当期純利益-1兆6000億円。
再稼働をせず廃炉を決定すれば、北海道、東北、東京の各電力会社と日本原電は債務超過になる。残り各社も純資産を大きく減らすことになり、23年度同様の赤字を出せば、債務超過になる可能性が大きい。
この他に、六ヶ所村で再処理工場を持っている日本原燃の経営問題もある。
エネルギー政策の転換には、電力業界の抜本的な立て直しが避けられない。