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ごまめの歯ぎしり ハードコピー版

第22号 『腹を切ればよいのか』

提供者のリスク

 人の命を救うためと言いながらも、健康な人間の腹をかっさばき、その肝臓をぶった切る生体肝移植がどんどんと増えていくことに、私は疑問を感じています。

 自分が提供者になってみると、提供者となる人の気持ちがよくわかります。

 自分のお腹を切って肝臓の一部を取り出すことへの恐怖感はもちろん、後遺症が出ないとは誰も言い切れません。提供後もしばらく体調は本調子に戻りません。しばらく仕事を休むことになります。身体には逆Tの字の大きな傷が付きます。提供者に進んでなりたいと思う人間はいません。

 しかし、家族の一人が死にかけている時に、血液型や肝臓の調子、仕事の都合などを考えると家族の中であなただけが提供者になれる可能性があるという場合、あなたはどうしますか。その時に家族や親族から無言の圧力がないでしょうか。提供者は医学的なリスクだけでなく、精神的、社会的なプレッシャーとも戦わなくてはなりません。

 生体肝移植をはじめとする生体臓器移植は、最後の手段であるべきだと私は思っています。健康な人間から臓器を摘出する前に、脳死になった方からの臓器提供による移植が最初の選択肢だと思います。しかし、現実は違います。2003年10月末に脳死からの肝臓の提供を待っている患者が66名いるのに対し、2003年に行われた脳死からの肝移植はわずか2件しかありません。その一方、生体肝移植は500件を超えています。肝臓移植の場合、最初の選択肢が生体肝移植で、ほとんどの場合、それが最後の選択肢なのです。

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