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ごまめの歯ぎしり ハードコピー版

第22号 『腹を切ればよいのか』

脳死とは何か

 自然の中では、脳が機能を失うと呼吸が止まります。心臓は脳の支配を受けていませんから、脳が機能を停止してもごく短時間拍動を続けますが、呼吸が止まっているので酸素が心筋に供給されなくなり、すぐに心臓も止まります。ですからかつては脳が死ねば、すぐに心臓も止まったのです。

 ところが人工呼吸器が発明されると、脳が死んでも、機械の力で呼吸が続けられるようになりました。すると心筋への酸素の供給が続けられていますので、心臓は脈を打ち続けることができます。しかし、脳の全ての機能は失われています。この状態を「脳死」と呼んでいます。心臓も数時間から一週間ぐらいで停止します。

 脳死と植物状態はまったく違います。植物状態の場合は、大脳の機能は失われていますが、呼吸中枢のある脳幹は機能しています。昏睡状態かもしれませんが、自発的に呼吸し、栄養を供給すれば生きていける状態にあります。

 脳死の場合、心臓が動いているために臓器には血液が通っています。そのために臓器は生きている時とほぼ同じ状態にあります。心臓死の場合の臓器は既に血流が止まっているために、臓器の状態は急速に悪くなり、心臓や肝臓は移植に適さない状態になってしまいます。もちろん腎臓や角膜のように心臓死の状態から摘出しても移植ができる臓器もあります。

 現在の法律では、臓器移植をする時にだけ、脳死をもって人の死として、それ以外の時には脳死は人の死ではないとされています。臓器移植法の審議の過程での参議院修正の結果、このような非常にわかりにくい法律になってしまいました。脳死は心臓死と同様に人の死だということをはっきりとさせるべきではないかと思います。

 臓器移植法の議論は、たしかに難しい議論だと思います。しかし、臓器移植法を施行して六年、そろそろこの問題に正面から取り組まなければいけない時期に来ました。ぜひ、あなたも一度、こういう問題があるということを認識し、考えてみて下さい。

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