Kono Taro Official Website 印刷する

ごまめの歯ぎしり ハードコピー版

第21号 『今ここにある危機』

日本経済の問題

 「天然資源の少ない日本が、唯一、持っている資源は人間だ」とよく言われます。少子高齢化のために、日本の労働力人口は既に減り始めていますから、日本の経済が発展するためには、一人あたりの生産性を高めていくことが絶対に必要です。

 ところが、ところが、東京大学の近藤正晃ジェームズ氏等の研究によれば、日本の労働力の生産性は、アメリカと比べ約三割も低いそうです。つまり、日本経済は、唯一持っている「人」という資源の力を有効に引き出せていないのです。

 日本の経済は、非常に高い生産性を誇るトヨタやキャノン等をはじめとする輸出型製造業とそれ以外の産業の二つにわけられます。

 自動車、工作機械、精密機器などの輸出型産業の労働生産性は、アメリカの同じ産業と比べ、二割ほど高くなっています。しかし、こうした産業は、日本のなかでも特に例外なのです。日本の大部分の産業は、アメリカの同じ産業と比べ、労働生産性が低く、特にアメリカと比べ労働生産性が四割も低い日本のサービス産業が、日本経済の足を引っ張っているのです。

 なぜ、日本経済の生産性はこんなに低いのでしょうか。

 最大の原因は、日本には、政府の介入により、市場経済が成り立たない産業が多いことです。一番良い例が金融です。つい数年前まで、日本の銀行は、金利から店舗数、預金高に至るまで大蔵省にコントロールされ、箸の上げ下ろし一つ自由にできなかったのです。しかし、その代わりに互いに競争する必要もありませんでした。その結果、新しいビジネスを創り出す必要に迫られなかった日本の銀行は、「土地専門の質屋」と呼ばれるような土地を担保に金を貸すだけのビジネスしかできなくなってしまいました。不良債権の問題を解決する決断もできなかった日本の金融機関は、外国の金融機関のような差別化のための経営戦略もなく、優秀な人材を育てることもシステムに投資することもせず、結果的に、競争の激しいアメリカの金融業の労働生産性を大きく下回ることになりました。

 もう一つの例が、道路公団です。高速道路の通行料の徴収やサービスエリア内の事業は、道路公団のファミリー企業がほぼ独占しています。形ばかりの入札は行われても、事実上応札するのは一社だけ。競争がないところでは、生産性を上げる必要もありません。これでは労働生産性が高まるわけはありません。

 税制や補助金、土地に関する様々な規制などのこれまでの政府の政策の結果、日本では中古住宅の市場が形成されてきませんでした。中古住宅の価格や品質に関する情報がきちんと提供されていないため、日本国内では、中古住宅の取引量が諸外国と比べ極端に少なくなっています。そのために中古住宅の価格は非常に安く抑えられています。もし、中古住宅市場が整備されていれば、良い住宅を高い値段で売ることができるようになります。日本の住宅の平均寿命は三十年と外国に比べかなり短くなっていますが、中古住宅が販売できるようになれば、住宅はもっときちんと手入れされるようになるでしょうし、それに関連した産業が、大きく成長することになりますし、自動車と同じように新築住宅の価格も中古住宅との競争で引き下げられていきます。

 本来、熾烈な競争をしているべき成田空港と羽田空港、あるいは成田空港と関西空港の間にほとんど競争がありません。国土交通省と空港公団の既得権益を守ることが優先され、運賃の引き下げやサービスの向上は二の次にされています。その結果、香港やソウル、上海などの空港が、徐々にアジアの玄関としての地位を築いています。競争がないぬるま湯の空港ビジネスは、競争が無くて国際的な競争力をつけられなかった銀行の失敗を繰り返すことになるでしょう。

 第二に、役所の天下りを受け入れるためだけに作られたと言っても良い外郭団体の存在が、日本経済のあらゆるところで生産性を引き下げています。

 例えば、安全を確保するという名目で建設会社の社員が取得しなければならない無数の資格が良い例です。ある作業を行うために、特定の資格を取得することが義務づけられ、その資格を取るためには数万円の講習料を支払って、講習を受けなければなりません。そしてその講習の大部分は、国土交通省の役人が天下っている外郭団体が事実上独占しています。しかも講習の内容たるや、講習中に眠っていても資格がもらえるようなものもあるのです。その結果、建設会社で社員が一人前になるために、人件費の他にこうした講習の費用や時間が余計にかかり、労働生産性を引き下げることになるのです。

 その他に、日本経済の中には官僚OBが役職に就いている無数の企業が存在しています。そのほとんどが、官僚OBに給料を支払うために、何らかの名目で収入を得ています。そして、そのほとんどが収入に見合った付加価値を経済に与えることができず、単なるコストになってしまっています。

 雇用・能力開発機構なる組織は、一千億円の自己収入の九割が人件費と金利負担で無くなってしまうため、雇用保険の特別会計から二千億円の交付金をもらって訓練事業や保養施設事業等を行っています。しかし、訓練事業は民間に委託しており、機構が行う必要はありませんし、保養施設の設置事業の中には悪名高いスパウザ小田原などが含まれています。この機構が存在するために、失業者に支払われるべき失業保険の財源が毎年数千億円の規模で食いつぶされてきたのです。

 第三に、経済性を考えずに行われる大量の公共事業が、本来ならば倒産するべき大手ゼネコンや大手不動産を生き延びさせてきました。効率の悪いこうした企業が生き延びることによって、建設業、不動産業の中の健全な企業が足を引っ張られることになってしまいました。そして、結果的に、建設業、不動産業全体の労働生産性を引き下げてきたのです。

 もちろん、意味のない公共事業は、日本経済全体のコストを上昇させるというもう一つの弊害も引き起こしています。北海道に造られる不必要な高速道路の赤字を埋めるために、東名高速道路の通行料が高くなり、東名を使って輸送される物資の価格が高くなります。意味のない地方の空港建設の赤字を埋めるために、羽田空港を発着する飛行機の着陸料が高くなり、航空運賃が結果として高くなっています。これが最終的には、経済全体の足を引っ張ることになっています。

 第四に、公平な競争をしない官製企業の問題があります。

 例えば、厚生労働省のいくつもの外郭団体が、国民の支払う厚生年金の保険料を流用して、グリーンピアというホテルを経営したり、雇用保険の保険料でスパウザなるホテルを建てたりしてきました。こうしたホテルはほとんど赤字を垂れ流し、厚生年金や雇用保険の会計にダメージを与えてきました。それだけではなく、民間企業ならば自分でひねり出さなければならない施設の修繕費が、国の特別会計から支出されていたり、民間企業ならばとうぜん納めなければならない税金が免除されていたり、とても公平な競争をしているとは言えませんでした。その結果、営利企業ではとてもできないような価格をつけて、民間のホテル・旅館の経営を圧迫する原因の一つになってきました。

 第五に、税制が抱える無数の問題があります。(これについては別途まとめます)

 第六に……。

第21号 目次へ 次へ 「構造改革」とは
ウィンドウを閉じる