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ごまめの歯ぎしり ハードコピー版

第17号 『構造改革はできるか』

BIS基準

 さて、銀行の経営に関しては、銀行の健全性を守るため、BIS基準という国際的な基準が設けられています。自己資本額を貸し出し額で割ったものを自己資本比率と呼び、最低でも国際的に活動している銀行は8%、国内だけで営業している銀行は4%以上の自己資本比率を守らなければなりません。

 単純銀行は、実は海外にも支店を持っている国際銀行です。図1では、20(自己資本)/200(貸し出し)で自己資本比率は10%ですが、図3では15/190となり、7.9%の自己資本比率となり、このままではルール違反です。そのために、単純銀行は、新たに5出資してくれる株主を見つける必要があります(その場合は、自己資本は20に戻り、左側の貸し出しも200になります)(図4)。

 あるいは、新たな株主を見つけることができない場合は、貸し出しを減らさなくてはなりません。自己資本が15なら、187.5まで貸し出すことができます。図3の状態で、単純銀行は、自己資本が15、貸し出しが190ですから、自己資本比率は7.9%で、ピンチです。そこで、単純銀行の経営陣が、自己資本を増やさずに国際基準をクリアしようと思えば、190の貸し出しのうち、2.5を返済してもらって、貸し出しを187.5に減らせば良いことになります。

 なぜ最近、銀行が融資を返せと言うようになったか、なぜ、銀行がなかなか融資をしてくれなくなったか、もうおわかりでしょう。日本の銀行は、不良債権のせいで、自己資本が少なくなり、融資を減らさなくてはならないのです。

 さて、単純銀行の経営陣が、貸し出し縮小路線を取ると、左側の箱は、貸し出しが187.5、現金が7.5ということになります(図5)。銀行は現金を持っていても全く利子が付きませんから、雀の涙でも利子が付く国債を買うことになります(図6)(自己資本比率の計算をするときに、「貸し出し」と違って、「国債」は計算に入れる必要がないのです。なぜならば、企業と違って国は倒産することがないから、国債は貸し倒れにならないとされているからです)。今、日本政府が財政の赤字を埋めるために、多額の国債を発行しています。この国債を金融機関がせっせと買い込んでいるのです。

 日本政府が景気対策で歳出を増やし、財政は赤字になっています。その穴埋めに、国債を発行しています。そして、不良債権のために自己資本比率が低くなってしまった銀行が、企業への貸し出しを抑え、あるいは企業への貸し出しを回収してまで、この国債をせっせと買い込んでいるのです。つまり、日本銀行から出たお金は、本来ならば、銀行を経由して、一般企業に貸し出され、そこから日本経済の血となって駆けめぐるはずなのに、傷ついた銀行が、企業に貸し出すかわりに国債を買い、企業への融資が細ってしまっているのです。

 だから、銀行の不良債権の問題は日本経済のガンなのです。

※単純銀行のモデルは、渡辺孝著『不良債権はなぜ消えない』を参考にしました。

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