モンゴルご訪問-12
2025.07.14
天皇皇后両陛下は、モンゴル御訪問を予定どおり終えられたところ、今回の御訪問に随行した首席随員としての所感を次のとおり報告する。
1 総論
(1)天皇皇后両陛下は、7月6日から13日までの8日間にわたりモンゴルを国賓として御訪問された。これは我が国の天皇皇后両陛下として史上初めてのモンゴル御訪問であり、天皇陛下にとっては平成19年(2007年)の皇太子としての御訪問以来二度目の、皇后陛下にとっては初めてのモンゴル御訪問であった。
(2)これまでモンゴル側からは、フレルスフ大統領、歴代大統領をはじめ、あらゆるレベルで累次に亘り、両陛下の御訪問に関する熱烈な招請があった。そのような中、今般、史上初の天皇皇后両陛下モンゴル御訪問が行われたことは、フレルスフ大統領の言葉を借りれば「歴史の金字塔」となる待望の出来事であり、モンゴル国民の長年の期待にお応えいただくものとなった。また、両陛下の御訪問の御様子は、連日両国で大きく報じられ、二国間の友好親善と協力関係が今後一層親密なものとなるまたとない最高の機会となった。
(3)両陛下は御無事に8日間の充実した御日程を終えられたが、当初は天皇陛下お一方での御出席となる見込みであった御日程にも皇后陛下の御出席を賜ることができ、両陛下がいずれの行事でも高い御関心をお持ちになってモンゴル国民に親しくお声掛けをされていた。その両陛下のお姿は、広くモンゴル国民の心に残るものとなり、また、日本国内にも大変明るいニュースとして届けられた。陛下が御出発前の記者会見で今回の御訪問に向けて述べられたとおりに両陛下でお揃いになってその思いを十分に達成なされたことを、首席随員として大変嬉しく感じるとともに、心よりお喜び申し上げる。
2 モンゴル政府・国民の歓迎ぶり
(1)天皇皇后両陛下の御訪問は、モンゴルの主要プレスが両陛下の御動静を伝え続けるなどモンゴル国民の間でも一大慶事として高い関心と温かい気持ちを持って受け止められた。特に、両陛下の空港御着時や御視察先への訪問時に、モンゴル側から歓迎の意味を込めて差し出されるアーロール(乾燥させた乳製品)をお口になさるお姿や、ナーダム会場でシャガイ(羊のくるぶしの骨)競技をお試しになる姿などは、両陛下がモンゴルの文化に敬意を示されていることの現れとして極めて好意的に受け止められた。両陛下のお人柄によって、モンゴル国民の中で自然な形で歓迎ムードが醸し出されたものと思料する。
(2)モンゴル側は、フレルスフ大統領自らの強いリーダーシップのもと、政府や関係機関をはじめとして国を挙げて受け入れ準備に臨み、今回御訪問された両陛下を熱く歓迎した。スフバートル広場での歓迎式典を始めとするいずれの公式行事でも、フレルスフ大統領夫妻が自ら両陛下を歓迎し、御会見、晩餐会、国民的祭典のナーダム開会式といった行事を通じて一貫して厚くおもてなしされていた。歓迎式典においてモンゴルの国賓接遇では初めてとされる21発の礼砲が象徴するように、両陛下の御訪問をモンゴルとして最高の儀礼をもって心から歓迎するといった気持ちが溢れていたと感じている。
(3)フレルスフ大統領は、両陛下の御訪問にあたり、接遇のための関係閣僚会議を複数回主催し、ロジを含めてすべての関連情報を同大統領に報告するよう求めていたほか、関係閣僚に対し、各御視察先等へ接遇のために同行するよう、特にバトツェツェグ外務大臣に対しては可能な限りすべての行事に同行するよう命じたなどと仄聞しており、両陛下へのおもてなしに遺漏なきを期すよう格別の配慮をしていたことがうかがわれた。また、フレルスフ大統領からは、歓迎式典後の御会見及び晩餐会の御挨拶に際し、今次御訪問に対する並々ならぬ思いや歓迎の意が表されるとともに、ナーダム開会式への両陛下の御臨席はモンゴル国民にとって栄誉なことであるとして感謝の意が表された。
(4)晩餐会の挨拶の中でフレルスフ大統領は、日本からの支援はモンゴルの発展に欠かせないものであり、かつ、一人一人の手に届くものであったとして深甚なる謝意を述べ、モンゴル側出席者から大きな拍手が起きた。これに対し、天皇陛下からも、日本で大災害が発生する度、間をおかずモンゴルから温かい支援の手が差し伸べられたことを決して忘れない旨述べられた。このことは、両国のお互いの支援・協力の絆に改めて思いをいたす機会となった。また、陛下は、御答辞の一部をモンゴル語で行われモンゴル側出席者から非常に好意的に受け止められていたほか、ビオラで国立馬頭琴楽団と「浜辺の歌」等を御共演され拍手喝采をお受けになるなど、言葉や音楽を通じて人と人の心がつながる場面が生まれ、心を動かされた。
(7)御視察先の周辺や沿道では大勢のモンゴル人が歓迎していたほか、各御視察先においてモンゴル側関係者は相当な熱意で準備し説明したことがよく窺えた。そして、両陛下がこれらの説明に丁寧に耳を傾け、語りかけられるお姿も大変印象的であった。モンゴル側関係者に感謝するとともに敬意を表したい。
3 両国の国民交流、二国間協力を通じた人材育成、若い世代との御交流
(1)天皇皇后両陛下は、9日に在留邦人代表と、11日に日本とゆかりのあるモンゴル人とそれぞれ御接見され、各界で長きにわたって両国の友好親善に貢献されてきたこれらの方々と直接お会話し、これまでの活動を励まされた。また、9日に視察したモンゴルコーセン技術カレッジ、ウランバートル市第149番学校及びモンゴル日本病院並びに10日に視察した新モンゴル学園では、日本留学を含め日本との協力・交流を通じて育成された人材が、現在、モンゴルの更なる発展に向けた熱意を持ってそれぞれの分野で活躍し、さらに将来を担う若者の育成にも尽力している姿を両陛下が御覧になられた。こうした世代を超えて引き継がれる両国の人と人との交流の素晴らしさに改めて光が当てられたことは、陛下が日本との協力や交流がモンゴルの発展に役立っていることを嬉しく思う旨述べられていたとおり、日本のモンゴルに対する協力の意義深さを双方が再認識する貴重な機会となった。
(2)天皇陛下が7日に御視察された「水」関連施設では、陛下は、市民の生活に必須である水の供給を確保する上で日本の支援が役立ち高く評価されていることを大変うれしく思う旨述べられていた。バトツェツェグ外務大臣の言葉を借りれば、両陛下のモンゴル御訪問の機会に陛下が水関連施設を御視察されたことで、水供給の確保に日本の協力が果たしてきた役割やその重要性が、改めて広くモンゴル国民に知られることとなり、この点も同様に大変意義深かったと考える。
4 モンゴルの歴史・文化や自然とのお触れ合い
(1)天皇皇后両陛下は、11日、12日両日にナーダム行事を御覧になり、ナーダム開会式の御感想として、同開会式は、モンゴルの歴史や伝統に根ざした自国の文化に、モンゴルの人々が誇りを持っていることがよく感じられた旨を述べられていた。また、天皇陛下が7日に御視察されたチンギス・ハーン国立博物館では、モンゴル帝国が広大な土地を統治できた要因などについて御理解を深められ、その歴史に対して敬意を表されていたことが印象的であった。さらに、陛下が9日に御視察になられたガンダン寺では、僧院長から、観音堂は、満州清朝からの独立を象徴し、その中にある巨大な菩薩像は、民主化後に国民の浄財によって再建されたものである点でモンゴルの自由を象徴するものであるとの説明をお聞きになり、ガンダン寺がモンゴルの独立と自由の象徴でもあることについて御見識を一層深められた。これら一連の行事を通じて、両陛下がモンゴルの文化・歴史について理解を深められ、また、そのことがモンゴル国・国民に対する敬意の表れとしてモンゴル国民に印象付けられたものと拝察する。
(2)12日のホスタイ国立公園御視察では、モンゴル原産の野生馬タヒにそれぞれ「トモ(「友」)」(牡)と「アイ(「愛」)」(牝)との命名をなされたが、これはモンゴルの自然保護への両陛下の敬愛の念が示された一幕として、モンゴル国民の記憶に刻まれることとなろう。天皇陛下としても、2007年に御自身が御覧になったモンゴルの大自然を皇后陛下にも直接お見せされたいとお思いであったのではないかと拝察するところ、この御視察はお二方にとって素晴らしい思い出となったのではないかと思料する。また、このような両陛下のお喜びになられる場面に携われたことは、首席随員をはじめ随員一同の大きな喜びでもあった。
5 日本人死亡者慰霊碑御供花
8日、両陛下は、日本人死亡者慰霊碑を御訪問になり、心ならずも故郷を離れた地で亡くなった方々を慰霊し、その御苦労に思いを致された。両陛下は最初、雨の中で傘を差しながら御供花をなされたが、御供花を終えられた後、雨が止んだことを受けて両陛下で話し合われ、再度、碑に歩み寄られて黙祷を捧げられた。この場面は両陛下のお気持ちが伝わり、大変に印象深く、心を打たれるものであった。亡くなった方々の御霊が安らかなることを祈りたい。
6 終わりに
(1)今回の御訪問は、未舗装道路の車両移動も少なくなく、両陛下に御負担をおかけする日程を伴うものであったが、フレルスフ大統領夫妻をはじめ、官民を問わずモンゴル側関係者一同の手厚い歓迎や配慮、また、日本側の在モンゴル大使館を始めとするロジ隊の職員一同やその他民間や東京の関係者各位の熱意と尽力によって、御訪問が順調に行われ、大きな成功を収められたと思料する。首席随員として、このような御訪問に携われたことは大変な名誉であると感じるとともに、双方の関係者一同に深く御礼申し上げたい。
(2)今回の御訪問は、日・モンゴル史の金字塔になったばかりでなく、これまでに築かれた友好親善のあゆみを、青き大空・テンゲルに向けて更なる高みへとどこまでも発展させるための新たな1ページとなったことと確信する。
(3)最後に、8日の御会見において、フレルスフ大統領から、愛子内親王の御訪問の招請があった。両陛下によって強められた日本とモンゴルの友好親善の絆が更に次の世代へとつながっていくことを心から願いたい。









