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社会保障改革2025-7 医療費の削減:残薬問題
2025.02.06
医療の質を落とさずに無駄な医療費を削っていこうと問題提起したところ、医療費を削れば医療の質になにがしかの影響を及ぼすものだから、慎重にというご意見をいただきました。
実は、医療の質を落とさずに医療費を削った実績があります。
抗がん剤の残薬問題です。
残薬というと、処方された薬を飲み切らずに家で余っているもののことだと思うかもしれませんが、薬瓶のなかに粉末状の薬があらかじめ入っていて、投与するときに生理食塩水などを加えて溶かして使うバイアル製剤になっている高価な抗がん剤に関する問題です。
こうした抗がん剤の中には、患者の体重によって投与量が決まるものがあり、溶かした薬がすべて使われずに一部がバイアル(瓶)の中に残ってしまいます。
慶應大学の岩本隆特任教授の試算によれば、2011年7月から2012年6月の間にバイアル製剤として提供された抗がん剤のうち、病院内で溶かしたけれど使われず、残薬となって廃棄された抗がん剤の額が保守的に見積もっても410億円ありました。
当時、抗がん剤のオプジーボの市場規模は1189億円、その7.9%が廃棄されていると見積もられ、同様に抗がん剤のアバスチンは市場規模が1110億円、廃棄率は8.9%と想定され、この2つの抗がん剤の残薬だけでおよそ200億円相当と推定されました。
岩本教授によると、その他の抗がん剤の残薬と合計して700-800億円程度、画像診断用の造影剤の残薬がおよそ100億円、そのほかの薬剤の残薬を合わせると病院内の残薬は1000億円近くになると推計されました。
本来、薬剤は使用した量が保険請求されるべきですが、病院はバイアル単位で購入しているため、使用量分だけを請求すると、残薬分は病院の持ち出しになってしまうので、残薬を含めたバイアル単位で保険請求する病院がほとんどのようでした。
2017年5月、私は自民党の行政改革推進本部長を務めていましたが、メンバーの鈴木けいすけ代議士(現法務大臣)から問題提起があり、彼をリーダーにこの問題に取り組みました。
バイアル製剤を使用するときに、CSTDと呼ばれる器具を利用すれば、6時間以内ならばその残薬を他の患者に使用してもよいと、当時、すでにアメリカでは認められていました。
また、CSTDを利用すれば、看護師をはじめ医療従事者が抗がん剤などに曝露することも防げます。
そこで、高額な抗がん剤の使用を特定の病院に集中し、使用量を保険請求するという原則を徹底し、残薬を有効利用することで、数百億円の医療費を削減することを提案しました。
瓶の底に残る薬の話ですが、大きな金額の話です。
2016年の秋から翌年の春にかけて厚生労働省が実際に病院で調査を実施し、2017夏に、一つの瓶に入った抗がん剤を2回にわけて使用することを認める指針が出されました。
残薬に関する指針が出されたのはこれが初めてです。
最近では、オプジーボは体重別ではなく定量投与となり、バイアルもその大きさになったため、残薬の問題は減少しつつあるようですが、こうした無駄を丁寧になくしていくことで医療の質を落とさずに医療費を削減することができます。
まずはこのような医療の質に関連しない医療費の削減を提起していきます。