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ごまめの歯ぎしり ハードコピー版

第25号 『空気の値段』

『空気の値段』

「京都議定書」という言葉をご存じですか。地球の温暖化を防ぐために先進国が1997年に京都に集まって、二酸化炭素やフロンなどの温暖化ガスの排出量を減らすために設定した法的拘束力のある数値目標です。

1997年に合意された目標ですが、1997年にはもうすでに温暖化が進んでいるからと、1990年を基準年としているのが特徴です。1990年に先進国で排出された温暖化ガスの量と比べて、2008年から2012年の五年間に先進国全体で少なくとも温暖化ガスの排出量を5%削減することを目標としています。そして、そのためにEUは8%、アメリカは7%、日本は6%削減することで合意しました(しかし、その後アメリカはこの議定書になんだかんだと難クセをつけ、この議定書からほぼ脱退してしまいました)。

日本は京都議定書を我が国の京都で決めたということもあって、外交的には京都議定書には積極的な立場をとり続けてきました。しかし、現実の温暖化ガスの排出量では大変なことになっています。

基準年である1990年に日本で排出されたガスの量は約12億トン(正確には12億3700万トン)。その6%減は11億6300万トン。しかし、2002年に日本で排出された量はなんと7 . 6%増えて、13億トン(正確には13億3100万トン)。京都議定書の目標値を達成するためには、これから6%どころか13 . 6%も排出量を削減しなければなりません。えらいこっちゃ!

政府は地球温暖化対策推進大綱というものを定めて、どの分野でどのぐらい温暖化ガスの排出を削減するか目標を決めました。この大綱によると、世の中を工場などの産業分野、自家用車を含む旅客・貨物などの運輸部門、オフィスビルなどの業務部門、そして一般家庭を家庭部門の4分野に分類し、それぞれ目標を決めました。

もっとも排出量が多い産業分野では2010年までに排出量を7%減らす、運輸部門は大幅に伸びているので減らすのは難しいから増加率を17%以下に抑える、業務部門と家庭部門で2%削減するというのがその目標です。(これでは6%削減にならないではないかですって? 実はこのほかに、光合成のために森林が二酸化炭素を吸収してくれるということを計算に入れて、我が国の森林が吸収してくれるはずの量も削減値として追加して計算します。えっ、ちょっとそれってインチキっぽい?)。

ところがどっこい2002年度の温暖化ガスの排出量を調べたところ、2010年までに7%削減するはずの産業部門で、わずか1 . 7%しか削減ができていませんでした。おいおいこれで2010年度までに目標通り削減ができるのかねと思いきや、増加を17%までに抑えることになっている運輸部門ではなんとすでに20%も排出量が増えてしまっているのです。

いや、実はこの二つの分野はまだ良い方で、2%削減を目標にしたオフィスビルなどの業務部門の温暖化ガスの排出量は37%も増えてしまっていました。そして、家庭部門の排出量も29%増加していたのです!エライコッタ。

このままいけば、京都議定書の数値目標を達成できないのは確実です。と、どうなるのでしょうか。

第一の選択は「しらばっくれる」です。しかし、日本はロシアをはじめ京都議定書に入りたがらなかった国々のケツを叩いて、失礼、お尻を叩いて、入れさせたという経緯があります。他人に強要しておいて、自分は知らないでは、外交的に無茶苦茶非難されることになるでしょう。

さらに、地球の温暖化を防ぐということになれば、先進国だけではなく中国などの発展途上国にも京都議定書のような数値目標を決めて守ってもらわなければなりません。その手本になるべき先進国の、しかも議定書に「京都」なんて冠までつけた日本がそれを守らなかったとしたら、たぶん発展途上国はこんな取り決めには意味がないと笑い飛ばすでしょう。その結果、地球の温暖化は防げなくなります。

と、第二の選択は、「他の国から枠を買ってくる」です。

ロシアを京都議定書に引き込むために、その他の先進国はロシアにいろいろとアメを提供しました。つまり、ロシアの削減目標を甘くしたのです。

今のロシアの前身のソ連の産業は、あまり効率的、効果的ではありませんでした。特に環境面では遅れていたといってもいいでしょう。ソ連時代の古い工場は、少し改良すれば生産性を大きく向上させることができますし、なによりも温暖化ガスの排出が大幅に減ります。ですからロシアは工場の効率を上げて利益を増やすための投資をすれば、同時に副産物として京都議定書の目標もクリアできるというとってもお得な立場にいるのです。ですから、ロシアは間違いなく京都議定書の目標を達成できます。いや、それどころか目標を大幅に上回る排出量の削減をすることができるのです。

そして京都議定書の取り決めでは、例えば削減目標5%の国が、10%の排出量を削減すれば、目標を上回った5%分を他の国に売ることができるようになっています。逆に言えば、削減目標に達しなかった日本は、達しなかった分の削減枠をロシアから買って帳尻を合わせなければならないのです。

このロシアが目標を上回るであろう排出量の枠は通称「ホットエアー(熱い空気)」とよばれ、注目を集めています。今日現在、このホットエアーの相場は、トンあたり$10と言われています。今の予測では日本は目標に対して年間5000万トンぐらい排出量がオーバーすると言われています。だとすると、毎年5億ドル、つまり500億円分の熱い空気を買わなければなりません。京都議定書の最初の目標期間は2008年から2012年までの五年間ですから、合計2500億円も日本国民の税金でロシアの「空気」を買わなければならなくなります!!

しかもトンあたり$10というのは現在の相場ですから、もし日本が目標を達成できないとなれば、ロシア側はしめしめとばかりに値段をつり上げてくるでしょう。トンあたり$40にでもなれば「空気」の値段は一兆円、トンあたり$80ならば二兆円(つまり消費税1%分です)。

地球の温暖化は台風や洪水の増加、マラリアをはじめとする熱帯性の感染症の増加、穀物の生産量への影響などいろいろな問題をもたらします。しかし、このままいけばその前に日本国民の財布を直撃することになります。温暖化ガスを削減するために私たち一人ひとりに何ができるか、自分の財布を眺めながら考えなければならない日が来るのかもしれません。

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