Kono Taro Official Website 印刷する

ごまめの歯ぎしり ハードコピー版

第31号 少子化対策で乗り切れるか?

「少子化対策」は、今や時代のキーワードの一つになりました。内閣にも少子化担当大臣が設置されています。

でも本当に、人口減少の日本を「少子化対策」が救うことができるのでしょうか。

そう簡単ではないようです。

早稲田大学の野口悠紀雄教授によると、もし今の日本の出生率が二倍になったとしても(現実にはそんなこととても難しい、というよりも無理なのですが)、日本が直面している高齢化や労働力不足の問題は解決しません。

これからの日本では、六十五歳以上の高齢者を何人の現役で支えていくことになるかを計算してみましょう。人口統計上、十五歳から六十四歳までを生産年齢人口と定義しているので、とりあえず十五歳から六十四歳の人口を現役と考えます。現役人口一人あたりの高齢者人口は、西暦二〇〇〇年には0 . 255人、つまり四人の現役が一人の高齢者を支えていました。国立人口問題研究所の推計によると、今後、二〇二〇年にはこの比率は0 . 488人にまで高まり、ほぼ二人の現役が一人の高齢者を支えることになります。そして二〇五〇年には0 . 764人と四人の現役で三人の高齢者を支えなくてはならなくなります。とても今の年金制度では支えきることはできません。積立方式の年金制度への移行は避けられないのです。

では二〇〇五年から出生率が倍増し、毎年生まれる赤ちゃんの数が二倍になったらどうなるかを野口教授が試算しています(「資本開国論」 野口悠紀雄著)。二〇二〇年に0 . 488人になるはずの現役人口一人あたりの高齢者人口の比率は、出生率が倍増した場合でも0 . 480人になるにすぎません。そして二〇五〇年には0 . 764人、つまり現役四人で高齢者三人という状況から0 . 613人 、やっと現役三人に高齢者二人という状況にまで改善されます。

つまり、二〇〇〇年に現役四人で高齢者一人を支えるという状況だったのが、現実にはとてもありえない赤ちゃん倍増が実現したとしても、二〇五〇年には現役三人で高齢者二人を支える時代になるのです(もちろん何も変化がなければ現役四人で高齢者三人を支えなければならなくなります!)。ですから出生率が仮に今から二倍になったとしても日本の高齢化には歯止めがかかりませんし、年金制度も改革が必要です。

出生率が二倍になったとしてもこんな状況ですから、もう少し現実的な、たとえば出生率が一割増えるという程度では、二〇五〇年の現役一人あたりの高齢者の数が0 . 764人 が、0 . 746人に低下する、つまりほとんど誤差の範囲の改善にしかなりません。

少子化対策や子育て支援は大切なことですが、今からの少子化対策では、それがどんなにうまくいっても、将来の高齢化や労働力不足を解決することはできないのです。

反対に少子化対策がうまくいって出生率が高まると新たな問題が生じます。つまり、現役世代は高齢者を支えなければならないだけでなく、増える子供たち(ここでは統計上十四歳未満)も養っていかなければなりません。現役一人あたりの高齢者と子供の数の合計は戦後ずっと0 . 5を下回ってきました。しかし、高齢化が進む中でさらに出生率が二倍になると現役一人あたりの高齢者と子供の数は二〇二〇年には0 . 863にまで高まります。つまり少子化対策がうまくいっても高齢化に歯止めがかからないだけでなく、親には子供の養育費や教育費の負担がどさっとのしかかってくることになります。野口教授の結論は「もう手遅れなのである」。(ここまでの数字はすべて十五歳から現役世代としていますが、現実には稼ぎ出すのはもっと後からですから、現実の数字はもっと悪くなります。)

 

ウィンドウを閉じる