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ごまめの歯ぎしり ハードコピー版

第22号 『腹を切ればよいのか』

急増する生体肝移植

 日本にはC型肝炎のウイルスに感染している人が数百万人の単位でいると言われています。C型肝炎ウイルスに感染すると、確率の問題で慢性肝炎、肝硬変、肝ガンに進行していきます。

 C型肝炎の蔓延は、国内における生体肝移植の急増をもたらしました。1980年代に始まった生体肝移植は、1994年には国内で82件行われました。それが五年後の1999年には248件になり、その二年後の2001年には年間417件の生体肝移植が行われています。2003年には500件を超えているはずです。この急激な件数の伸びは、親父のようなC型肝炎による肝硬変を引き起こした患者を助けるための移植が急増したことによります。

 私が肝臓を提供することを決心した時に、おまじないのように唱えていたことが二つありました。「日本では提供者は死なない」「切った肝臓は(形状は元に戻ることはないが)再び大きくなり、体積が戻ると同時に機能も戻る」。

 ところが2003年5月4日、日本で初めて京都大学で提供者が亡くなられました。アメリカ、ヨーロッパではあわせて五名の提供者がこれまでに亡くなられています。

 また1989年から2002年の間に日本で行われた生体肝移植の提供者1853名を追跡調査した結果、胆汁漏出、高ビリルビン血症、小腸閉塞、胆管狭窄、門脈血栓症、手術創感染などの余病を発症した提供者の割合が12%を超えていることがわかりました(この調査が行われるまで提供者の予後を調べたことはなかったようです)。はっきり言ってしまえば、わが愛妻にはあまり聞かれたくないことですが、提供者の医学的リスクは今日現在、不明確なのです。

 (心臓は興奮すればどきどきしますし、食べ過ぎれば胃がもたれたりするのとくらべ、肝臓が身体のどこにあるかを日常生活で意識することはほとんどありません。実は肝臓は胃の裏側にあります。肝移植の提供者になり、肝臓の一部を切り取ると胃の裏側あたりにぽっかりと空間ができることになります。提供者の十人に一人はこの空間に胃がねじ曲がってはまりこみ、胃から先に食べ物が出て行かなくなります。もしこうなると胃カメラを飲んでそれで胃を引っ張り出さなければなりません。私も手術後に胃が穴にはまって、胃カメラを飲むことになりました。これも一種の後遺症です。やがて肝臓が再び大きくなるとこの空間もなくなります。閑話休題)

 移植のために切り取った肝臓は再び大きくなります。しかし、腎臓移植では提供された腎臓は永久に失われてしまいます。最近行われるようになった生体肺移植では、提供するために切り取られた肺は元に戻りません。近々生体移植が実施されると言われる膵臓も、切り取られれば機能は大きく低下します。一人の命を救うために、もう一人の健康な人間の健康が失われても良いのでしょうか。

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