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ごまめの歯ぎしり ハードコピー版

第20号 『異議があります!』

「異議があります!」

 一九八四年、当時大学三年生だった私は、ポーランドのワルシャワにある中央計画統計大学に留学していました。

 そのころのポーランドは、共産党の独裁政権下で、ひどい状況にありました。肉や砂糖など生活必需品は全て配給制で、配給切符を持って長時間行列しなければ手に入りませんでしたし、凍える寒さの中、シャワーにお湯は出ませんでした。大学の寮の食事は、ほとんど毎食、ジャガイモと酢漬けキャベツだけでした。共産党政権に反対し、自由を求めた活動で一世を風靡した「連帯」も弾圧され、後に自由化されたポーランドで大統領になったレフ・ワレサ「連帯」書記長は、まだ自宅軟禁下にありました。私は、反体制派の神学生と一緒にグダンスクという街に住むワレサ書記長の自宅を訪ね、お目にかかることができましたが、ワレサ書記長の住むアパートを出たところでポーランド警察に逮捕され、留置所に連行されました(正式な罪状は、外国人なのにパスポートを携帯していなかったことでした)。留置所で震えていると、一緒に捕まった相棒に、「俺は最近まで六ヶ月牢屋に入っていたばかりで詳しいから、心配するな」と慰められ、余計にビビッたことを今でも良く覚えています。結局、翌朝に釈放され、事なきを得ました(パスポート不携帯の罪でシベリア送りになったのではしゃれになりません)。

 そんなポーランドでも、大学の同級生達は、「タロー、この国にもちゃんと議会があって、民主主義があるんだ」と胸を張っていました。「議会があって民主主義だというならば、なんでこんなおかしな事がこの国ではまかり通るのか」とまぜっかえしたものでしたが、共産党の独裁を可能にしている議会ですから、本当に名ばかりの議会でした。「議会があればそれで民主主義だというのは大間違いだよ」と、ずいぶん彼らを批判しました。

 あれから二十年近くが経ちますが、最近、なぜかときどきあのころにタイムスリップしたような気がするときがあるのです。

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