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ごまめの歯ぎしり ハードコピー版

第18号 『国会議員は詐欺師か』

国会議員は詐欺師か

 「日本の国会議員はみんな詐欺師みたいなもんだね」

 僕がまだ当選一回のころ、議員交流で来日していたイギリスの国会議員からいきなりそう言われました。

 日英議員連盟主催の会議の休憩時間に、コヒーカップを片手に、ドーナッツをもう片手に談笑しているときでしたから、もちろん、いきなり殴りあうわけにもいかず、凍りついた笑顔で、「えっ、どうして?」

 「日本の総選挙の時のいろいろな候補者のリーフレットを集めてみたけれど、どれにも『私は』こういうことをします、と書いてあるよ。総選挙というのは五百人の衆議院議員を選ぶ選挙で、大統領の選挙とは違うのだから、もし当選したら『私は』こういうことをやります、と候補者が言ってみても、五百人いる衆議院議員のうちの一人でしかない『私が』それを実現できる保証はないじゃないか。そんなできもしないことを訴えるなんておかしいよ」(96年の選挙では衆議院の定数はまだ500でした)

 「それじゃあ、イギリスの候補者はどうしているんだい」

 「イギリスでは、候補者は、我々の政党がこの選挙に勝って政権を担うことになったら、こういう政策を実行に移すという『党』の公約を主張するんだ。党が勝ったら、党のリーダーが首相になって自分たちの内閣をつくる。それでその内閣が党の公約の実現のための法案や予算を国会で成立させるように努力するのさ」

 「なるほど。ただ、日本はこの前の選挙までは中選挙区制で、一つの選挙区に一つの政党から複数の候補者が立候補していたから、党の公約を訴えるだけでは同じになってしまう。だから『私は特にナントカをやります』ということを訴えて、差別化していた。その名残をまだ引きずっているのさ」

 「ふーん。でも日本の候補者の主張は、『明るい農村をつくります』とか『戦争と消費税に反対』とか『福祉をしっかりやります』のように、たんなるキャッチフレーズにすぎないよね。もっと具体的にこういう政策を実施する、こういう法律を作る、こういう予算にするということを訴えなければ選挙にならないはずだ」

 議会制民主主義、あるいは政党政治ということを考えると、確かにイギリス型が優れています。「公約」というものを有権者と政党との契約だと考えるか、「公約」とは漠然とこうなったらいいな程度のものと考えるか、の差だと思います。これまで日本でも、選挙のたびにそれぞれの政党は、党の公約を作成していますが、その公約はほとんど誰にも読まれず、党の公約よりも候補者のパーソナリティが選挙の争点になって来ました。

 七月末まで続いた今年の通常国会は、この日本型の政党政治の限界にぶちあたりました。

 昨年の自民党の総裁選挙に勝って、総裁になった小泉純一郎は、それまで一貫して郵便事業への民間参入と郵便局の民営化を訴えてきました。自由民主党の党員、そして国会議員は、その小泉純一郎を、圧倒的大差で総裁に選びました。

 昨年の夏の参議院選挙で、日本国民は、道路公団の民営化をはじめとする構造改革を訴えた小泉純一郎が率いる自由民主党を圧倒的に支持しました。

 構造改革は、小泉純一郎と小泉純一郎をリーダに選んだ自由民主党が、日本国民と交わした約束ではないでしょうか。自由民主党の各議員は、この公約を実現するために全力を尽くすべきではないでしょうか。

 小泉内閣は、その公約に従って、郵政公社化法案(郵便局を独立した郵政公社にする法案)と信書便法案(郵便事業への民間参入を認める法案)を準備しました。しかし、自民党内の抵抗勢力は、それに対して公然と反対しました。(抵抗勢力というのはオブラートに包んだ言い方で、実質的には田中角栄元首相以来、数で自民党を牛耳ってきた田中−竹下−金丸の系譜です)

 道路公団の民営化問題も同じです。小泉首相の構造改革の大きな柱である道路公団の民営化推進委員会のメンバーに、小泉総理は、これまで道路公団の民営化を声高に主張してきた猪瀬直樹氏を選びました。これに対しても、自民党の重要な役職についている議員が猛反発しています。

 この党内の反乱により、いったい小泉政権はどこへ行くんだ、自民党はどこを向いているんだという疑問が湧き上がり、小泉政権の支持率にも影響しました。

 政治家は、それぞれが自分の信念というものを持っているはずですから、それに従って総理の法案に反対することもあると思います。しかし、それならば、政府や党の役職を辞し、無役になって反対すべきです。

 選挙の時には、『私』の公約を訴え、役職についても『私』の主張を訴えるというこれまでの政治は、いたずらに有権者を混乱させています。

 今の日本の政治に何よりも必要なものは、はっきりとしたビジョンと具体的な政策を『政党』として掲げて、選挙で有権者の審判を仰ぎ、政権を取ったらその公約を有権者との契約として考えていくということだと思います。

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