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ごまめの歯ぎしり ハードコピー版

第11号 『トイレの無い家(原子力エネルギー政策)〜1999.11〜』

どす黒い現実

 でも世の中そう甘くはありません。
まず、ウランを燃やして出る燃え残り(使用済み燃料)の問題があります。
 現在、日本で発生するウラン燃料の燃え残りは、年間約九百トン。発電量の増加とともに、これは増加し、2010年には、年間千四百トンになると予測されています。しかし、現在、燃え残りの貯蔵施設の余裕は日本全国であと九千トン分しかありません。
 燃え残り(使用済み燃料)の一部は、これまで海外に送られて、リサイクルされ、プルトニウムになって国内に戻ってきています。政府は、国内で燃え残り(使用済み燃料)をリサイクルするために、施設を青森県六ヶ所村に立地することをやっと決めましたが、操業開始は2005年、しかも処理能力は最大八百トン。つまりこの施設がフル稼働しても毎年数百トンは処理が追いつきません。
 次に、この燃え残り(使用済み燃料)をリサイクルして燃え残りウランとプルトニウムを取り出すと、強い放射能を出す高レベル放射性廃棄物というごみが出ます。高さ一・三メートル、直径四十センチのステンレスのドラム缶のようなものにガラスで封じ込まれたこのごみは、強い放射能による熱を出すため、まず三十年から五十年、貯蔵施設で冷やし、その後、地下水や地震、テロなどの影響がない、人里はなれた場所の地下数百メートルに厳重な管理の下、数百年間、完全に人間社会と切り離されて埋められなければなりません(地層処分という)。
 とりあえず、六ヶ所村の施設で数十年間の冷却は行う予定ですが、地層処分を行う場所は、まったく決まっていませんし、誰がこの数百年間、それを管理するのかもまだ決まっていません。
 さて、リサイクルをして、取り出したプルトニウム。これも問題です。プルトニウムは核兵器の原料になります。リサイクルのために海外に送った燃え残り(使用済み燃料)から取り出されたプルトニウムが国内に戻り始め、いまや日本国内に二十トンを超えるプルトニウムがあり、海外から日本は核兵器を作るのかと疑念の眼で見られかねない状況です。さらに、六ヶ所村の燃え残りのリサイクル施設が稼動を始めると、毎年六トンのプルトニウムが取り出され、ますます、在庫は増えていきます(つまり六ヶ所村の再処理施設は、燃え残りのリサイクルには小さすぎる一方、プルトニウムの取り出し量は大きすぎるわけです)。

 さらに、プルトニウムを燃やす夢の原子炉(高速増殖炉)の開発は、実験炉である「もんじゅ」が事故を起こしたこともあり、まったくめどが立っていません。しかも、外国は、この技術は金がかかりすぎると相次いで開発を中止しています。
 このままではいかんと、余ったプルトニウムを普通の原子炉で燃やすプルサーマルという方式で、プルトニウムを処理しようと計画しましたが、そのとたんに、データの改ざんが発覚し、計画が遅れています。
 つまり、原発を作ったはいいが、そこから出てくる燃え残り(使用済み燃料)、ごみ(高レベル放射性廃棄物)、プルトニウムに関して、確実に処理ができるかどうか、まだわからないといってもいいと思います。
 とりあえず家を建てて住んでみたけれど、トイレを作っていないのと同じです。あわてて、便器を置いてみたけれど、下水にはつながっていませんから、やがて便器からあふれてきます。これが、今の日本の原子力政策です。このまま続けていっていいのでしょうか。いや、それどころか今の通産省の計画では、今、52基ある原発の数を更に20基増やそうとしているのです。これは止めなくてはいけません。 

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