金融庁は、保険会社による一方的な予定利率引き下げを認める保険業法の改正案を国会に提出しました。
この法案は、資本主義の根幹である私的契約の概念に反するものであり、自民党内の手続きにも瑕疵があった問題法案です。私は、断固、この法案に反対します。
金融庁の説明によれば、低金利による逆ざやにより、破綻の危機に瀕している保険会社があり、契約者を保護するために予定利率の一方的な引き下げが必要だということになっています。
たしかにかつての高金利を背景にした予定利率が5%や6%という保険契約が存在するのは事実ですし、0.5%台にまで落ち込んだ最近の長期金利との逆ざやが、発生しているのも事実です。金融庁の統計によれば、平成13年度末に生命保険会社全体で、一兆五千億円程度の逆ざやを抱えています。
しかし、たしかに生命保険会社は、金利では赤字を出していますが、死差および費差と呼ばれる分野では大きな黒字を抱えています。生命保険は、五十年、百年に一度という大きな事故や病気の流行を考え、契約者の死亡率を現実よりも高く設定し、契約者にはその高い死亡率で計算した保険料をお支払い頂いています。これが生命保険会社の死差益とよばれるもので、平成13年度末では、保険会社全体で二兆七千億円の黒字になっています。
また、費差益とは、生命保険にかかる費用を多めに見積もり、その分保険料を高く設定することで、同様に平成13年度末で、約八千億円の黒字になっています。
つまり、生命保険会社は、低金利による利差損を出しながらも、死差益と費差益でこれを打ち消して、さらに二兆円に達する差益をあげています。
たしかに、低金利は生命保険会社の経営にとって大きな問題です。しかし、予定利率の引き下げを今やらなければならない理由ではありません。本当に低金利による逆ざやが問題の原因ならば、全ての生命保険会社が同様に影響を受けているはずですが、特定の生命保険会社が問題視されているのは、それだけが原因ではないからです。
生命保険会社の経営にもっと大きな負担になっているのは、経営判断の間違いです。
生命保険会社も金融機関ですから企業への融資を行います。その融資が焦げ付いて回収できない、あるいは保有している株式の評価が下がったために損失が発生したなどという額が、生命保険会社全体で、一兆三千億円を超えると言われています。そして、銀行の不良債権と同様に、正確な数字はわかりません。
この法案のいかがわしさを象徴しているのが、金融庁が、生命保険会社による一方的な予定利率の引き下げは破綻処理ではなく破綻前処理であると強調している点です。破綻処理であれば、その生命保険会社に基金(株式会社の株式に当たる)を出したり、融資をしたりしている銀行は、その債権を不良債権に分類しなければなりません。その結果、銀行の自己資本が大きく減少することになります。破綻前処理であれば、銀行が受ける影響は小さくなります。予定利率引き下げを破綻前処理として扱い、銀行を保護しようとする金融庁の意図がこの法案に見え隠れしています。
もし、予定利率が引き下げられ、契約者の保険金が三割削減される事態になった時、金融機関からの融資や基金が三割以上の削減をされないとすれば、契約者が損することによって、金融機関が救済されることになってしまいます。金融庁が銀行救済の意図がないならば、法案の中に、契約者の保険金削減以上の債権の削減を金融機関に義務づける条項が入っていなければなりません。
金融庁の説明では、利率は3%以下には引き下げないという下限を設けることになっています。この点についても疑義があります。これまで破綻した生命保険会社は、再建段階で予定利率を3%以下にまで引き下げています。つまり、生命保険会社の状況によって、本当に破綻を避けるためには3%以下に予定利率を引き下げなくてはならないということも起きるはずです。しかし、最初から下限を3%に設定してあるということは、この破綻前処理によって生命保険会社が再建されない可能性があるということです。
現実的に考えて、一方的に予定利率を引き下げた生命保険会社が、その後、新規契約を取ることができるでしょうか。破綻前処理として、予定利率を引き下げた生命保険会社は、結局、破綻することになるのではないでしょうか。
生命保険は、契約者にとって、いざというときの頼みの綱です。その保険金額を下げることになる予定利率の引き下げというのは、一度成立した契約を変更することになりますから、非常に深刻な問題です。
今度、金融庁が出してきた法案には、いくつかの問題点があります。
まず、第一に、生命保険会社を破綻寸前まで追い込んでしまった経営者に責任をどう取らせるのかということが全く入っていません。
次に、予定利率の引き下げにより、契約者は大きな被害を受けることになりますから、当然に、生命保険会社に基金や劣後債という形でお金を出している金融機関も少なくとも同等以上の負担をしなければなりません。そうでなければ、契約者が損をすることによって、金融機関を救済したことになってしまいます。しかし、金融庁案には、そのことが明記されていません。
この二点が明確にされていない法案を認めることは、私にはできません。 |