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不良債権を処理すべし
 
 

 不良債権は、銀行の問題ですから、まず「単純銀行」という銀行を設立しましょう。単純銀行には、自己資本(株主が出した資本金とこれまでの利益の積み立て)が20万円あります。銀行ですから、当然預金をあちこちから180万円集めました。これで、単純銀行は200万円の資金を集めることができました。

 集めたお金を運用して利息を稼ぐのが、銀行業です。単純銀行は、集めた200万円を全額いろいろな企業に融資します。これをわかりやすく表にしたものが(図1)です。右側の箱には、単純銀行がどうやってお金を集めたかが書いてあり、左側の箱には集めたお金をどうしたかを書いてあります。

注意:預金者が預金を引き出しに来たときに、払い戻しができるように、銀行の手元にはいつも十分な現金がありますが、ここでは、それを無視しています。

  さて、ここで事件です。単純銀行がお金を貸した企業の一つが経営不振に陥りました。この企業に貸したお金の返済が滞る可能性があります(もし、借りた企業が約束どおりの返済や利息の支払いをできなくなれば、銀行からみてその融資は不良債権です)。この企業には土地を担保に10万円を貸したのですが、土地の値段が下がったため、今、担保を処分しても確実に回収できるものは5万円しかありません。 もし、貸したお金が返ってこないと、預金者に預金を返せないことにもなりかねません。そこで、銀行は、危なそうな貸し出しがいくらあるかを明確にしておかなければなりません。

 単純銀行のケースでは、10万円の貸し出しが不良債権になりました。担保の価値が5万円ありますから、回収できなくなる可能性があるのは5万円です。そこで、5万円だけ、回収不能になる可能性があることを示さなくてはなりません。

 そこで、右側の箱に、貸倒引当金というものを計上します。(図2)この意味は、左側の箱の貸し出しの中の5万円が返ってこない可能性があり、その場合には右側の箱に計上したこの貸倒引当金と相殺しますよ、ということです。

 右側の箱の「預金」は、必ず預金者に払い戻さなくてはなりませんから、これに手をつけることはできません。銀行は、「自己資本」の中から貸倒引当金を計上しなければなりません。(貸倒引当金を「積む」とも言います)

 この単純銀行の場合は、自己資本20万円のうちの5万円を貸倒引当金として、右側の箱に計上します。つまり、単純銀行の右側の箱は、180万円の預金、5万円の貸倒引当金、そして15万円の自己資本ということになります。この時点で、左側の箱は、200万円の貸し出しのままです。このように貸倒引当金をきちんと計上することを間接償却といいます。

 貸倒引当金を積むということは、利益を削るということです。単純銀行の経営者にとっては、大きなミスです。

 もし単純銀行の経営者が、この自分のミスを隠そうとしたらどうするでしょうか。一番簡単なのは、貸し先のこの企業が経営不振であるということを認めないことです。これならば貸倒引当金を積む必要がありません。あるいは経営の不振は認めても、この企業の担保の土地価格を実際よりも高く評価しておくといった方法もあります。こうすれば、貸倒引当金の額を減らすことができます。

 これまでに大きな負債を抱えた企業が倒産したときに、貸し手の銀行が、ほとんど貸倒引当金を積んでいなかったということがありました。この場合は、いきなり右の箱の自己資本が削られることになります。もし、不良債権の金額が自己資本の額を超えてしまったら、預金者から預かった預金が払い戻せなくなってしまいます。最近、「資産査定の厳格化」「引当の強化」ということが言われていますが、これは銀行がきちんと貸倒引当金を積んでいるかどうかを、金融庁が厳しくチェックしようということです。

 さて、残念ながらこの融資先の企業が倒産しました。単純銀行は、担保の土地を売却し、なんとか5万円だけ回収することができましたが、その他の5万円は回収することができませんでした。(図3)

 単純銀行の左側の箱は、貸し出しのうち10万円が無くなってしまったわけですから、「貸し出し」の項目が190万円に減ります。5万円は回収不能ですから左の箱から消えて無くなります。担保を売却して回収した5万円は、左側の箱に現金として、計上されます。左の箱から消えた5万円に相当する右側の箱に計上した貸倒引当金の5万円が消えて、処理が終わりました。このように担保を売却し、最終的に処理することを直接償却と言います。

 ここで注意していただきたいことは、正しく行われれば、銀行経営に与える影響は、間接償却でも直接償却でも同じになるということです。問題になるのは、間接償却をするときに、不良債権の額を少なく見積もったり、担保価値を実際よりも高く見積もったりしたときです。この場合、融資先が倒産し、直接償却をする時に、銀行の自己資本がさらに減ってしまいます。これは直接償却の問題ではなく、間接償却が正しく行われなかったことが問題なのです。

 さて、銀行の経営に関しては、銀行の健全性を守るため、BIS基準という国際的な基準が設けられています。単純銀行の例で言うと自己資本額を貸し出し額で割ったものを自己資本比率と呼び、最低でも国際的に活動している銀行は8%、国内だけで営業している銀行は4%以上の自己資本比率を守らなければなりません。

 単純銀行は、実は海外にも支店を持っている国際銀行です。図1では、20万円(自己資本)/200万円(貸し出し)で自己資本比率は10%ですが、図3では15万円/190万円となり、7.9%の自己資本比率となり、このままではルール違反です。そのために、単純銀行は、自己資本比率が8%になるまで、貸し出しを減らさなくてはなりません。自己資本が15万円の銀行は、BIS基準によると、187.5万円までしか貸し出すことができません(187.5万円の8%は15万円)。図3の状態では、単純銀行は、190万円の貸し出しのうち、2.5万円を返済してもらって、貸し出しを187.5万円に減らさなくてはBIS基準をクリアできません。

 日本の銀行の多くが、この単純銀行のケースとよく似た体験をしています。なぜ最近、銀行が融資を返せと言うようになったか、なぜ、銀行がなかなか融資をしてくれなくなったか、もうおわかりでしょう。日本の銀行は、不良債権のせいで、自己資本が少なくなり、融資を減らさなくてはならないのです。 そのために貸し渋り、貸し剥がしといったことが起き、新規投資のための融資もできなくなってしまうのです。

 図3の状態に陥った単純銀行がBIS基準をクリアする方法がもう一つあります。自己資本を5万円増やすことです。もし、自己資本が20万円になれば、単純銀行は貸し出しを200万円にまで増やすことができます。貸し渋り、貸し剥がしも無くなります。

 もし健全な収益性の高い企業が増資を求めているのであれば、民間の資金が投資されて済む話です。しかし、脆弱性を抱える銀行の株を、数兆円の規模で買うということになると、民間の資金をあてにすることはできません。そこで法律に基づいて、公的資金を使って銀行の増資を行うことになります。(図6)

 ここで注意することは二つ。まず、公的資金の注入は、銀行を助けるためではなく、日本の金融システム全体、そして銀行から融資を受けている健全な企業を助けるための政策です。公的資金の注入という状況を作り出した経営者は当然にクビになり、裁判でその責任が問われることにもなります。

 第二に、公的資金を利用して購入したその銀行の株は、銀行がリストラされ、業績が上がった時点で売却されます。購入した価格と同じ価格で売れれば、国(国民)は損をしません。購入した価格を売却価格が下回ったときに、国が損をすることになります(損の分が税金で穴埋めされます)。反対に売却価格が上がっていれば得になります。公的資金の注入イコール国民の血税を使うということではありません。

 金融庁や自民党の長老が主張し続けるように、今の日本の金融システムに問題がないということはありません。特に銀行の経営には大きな問題があると思います。日本経済を再生するためには、ここで思い切った決断が必要です。

(単純銀行のモデルは、渡辺孝著『不良債権はなぜ消えない』を参考にしました)

(ごまめの歯ぎしり第十九号)

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