米国の核戦略見直し

2018.02.05

節分の日の朝、米国国防省はアメリカの核政策、戦略、能力、戦力態勢を定めた報告書、「核態勢の見直し(NPR:Nuclear Posture Review)を公表しました。

NPRの公表は1994年、2002年、2010年に次いで4回目となります。

我が国は、北朝鮮の核兵器の脅威にさらされています。

極めて強い破壊力を持つ核兵器による攻撃を防ぐためには、核兵器による抑止が必要です。

抑止のために、核兵器がもたらす破壊力と同等の脅威を通常兵器でもたらそうとすれば、莫大な量の通常兵器が必要になり、とても現実的ではありません。

また、日本は、専守防衛をうたい、非核三原則を堅持する方針を明確にしています。ですから日本は、北朝鮮の核への抑止を米国の核兵器に依存することが必要です。

今回のNPRは、「米国には、欧州、アジア、太平洋地域の同盟国の安全を確保するという拡大抑止に対する公のコミットメント(決意)がある。..いかなる国も、我々の拡大抑止へのコミットメントの強さ、あるいはいかなる潜在的な敵対国の核や非核攻撃も抑止し、必要であればそれを撃退するという米国と同盟国の能力の強さを疑うべきではない。」と明確にうたっています。

北朝鮮の核・弾道ミサイルの脅威に直面し続けている我が国にとって、日本を含む同盟国に対する米国の拡大抑止へのコミットメントが明確に表明されていることは、我が国の防衛にとって非常に有益であり、日本政府は、これを高く評価します。

前回、オバマ政権下で作成された2010年のNPRは、核兵器の役割を低減させるとしていました。

しかし、今回のNPRは、米国が、冷戦中の最盛期と比較して核兵器保有量を85パーセント以上削減し、20年以上にわたり新たな核能力を配備してこなかったにもかかわらず、2010年のNPR以降、世界的な脅威環境が著しく悪化してきていると指摘しています。

米国は、今回のNPRにおいて、北朝鮮による核・ミサイル開発の進展、中国による核戦力の増強及び透明性を欠いた核近代化計画、ロシアによる中距離核戦力(INF)全廃条約違反の地上発射型巡航ミサイルを含む運搬能力の拡大と限定的な核の先制使用への傾斜など、安全保障環境が悪化する中で、米国の抑止力の実効性を確保することに重きを置くとしています。

現実の危機に対応し、米国とその同盟国、パートナー国を守るという観点から見れば、このような明確な方針が示されたことは、高い評価に値すると思います。

2010年のNPRにおいて、究極的な核廃絶という理想を高らかに表明した姿勢からは一歩後退との指摘もあると承知していますが、現実の安全保障上の脅威に適切に対処しながら、核軍縮を進める必要があることを日本は訴えてきています。

今回のNPRでも、米国は、究極的な核廃絶に向けた自らの取組に引き続きコミットするとしており、INF全廃条約の遵守や新戦略兵器削減条約(新START)の履行を表明し、核兵器不拡散条約(NPT)の義務の遵守や核実験のモラトリアムを引き続き維持することが表明されています。米国政府は、2月5日に履行期限を迎えた新STARTについて、戦略兵器削減目標を達成したと発表しています。

ただ、残念ながら包括的核実験禁止条約(CTBT)の批准については否定的に表記されており、日本としては、引き続きCTBTの早期発効を働きかけていきます。

米国の核戦力のほとんどは冷戦期に配備されたもので、オバマ政権は、核戦力の近代化計画を立案し、米国議会はその計画を承認しました。今回のNPRは、この核戦力の近代化計画を踏襲することとしています。

また、既存の潜水艦発射型核弾道ミサイル(SLBM)の一部の弾頭を改修し、低出力の核兵器を開発することをうたっています。

これは一見、核兵器の使用の敷居を下げるようにも見えます。

しかし、現在、ロシアがウクライナなど欧州において、限定的な核の使用を戦略に入れ込もうとしていると言われています。

米国は大きな戦略核だけしか保持していないため、ロシアは、ロシアが欧州で小さな核兵器を使った時、それに対して米国が全面核戦争になることを承知して戦略核を報復に使用することはしないだろうと考えている可能性があります。

こうした現状を放置しておくと、ロシアが、小さな核兵器の使用ならば米国は大きな戦略核による報復をしないという誤った認識のもと、核を使用する可能性すらあります。

米国が低出力の核兵器を保持することによって、こうしたロシアの誤算を防ぐことになり、核の先制使用や核のエスカレーションのリスクを低減することで、むしろ核の敷居を上げるものであるとNPRでは説明しています。

同じことは、北朝鮮の核兵器の使用についても言えると思います。今回のNPRは、北朝鮮が様々な戦略・非戦略の核兵器を開発し、米国への核攻撃の威嚇と併せ、このような核兵器を使用して紛争を有利に進めることができると誤って認識している可能性を指摘しており、それに対処するため、柔軟な抑止力が必要であるとしています。

今回のNPRは、「米国、同盟国及びパートナー国の死活的利益を守るべき極限の状況(in extreme circumstances)においてのみ核兵器の使用を検討する。極限の状況には、重大な非核戦略攻撃(non-nuclear strategic attack)が含まれ得る。」と、2010年のNPRと同様に、非核攻撃を抑止する役割を担う可能性にも言及しています。

米国は、生物兵器、化学兵器を放棄しています。そのために、生物兵器及び化学兵器といった非核攻撃に対する核兵器による報復の可能性を明記することによって、敵国が生物兵器や化学兵器ならば核兵器による報復はないといった誤認をするリスクを減らし、米国、同盟国及びパートナー国への生物兵器や化学兵器による攻撃に対する抑止力を高めようとしています。

その一方で、今回のNPRは、「NPT締約国であり、核不拡散義務を遵守している非核兵器国に対しては、核兵器を使用せず、使用の威嚇をしない」と、消極的安全保証を維持しています。

核兵器のない世界を目指すためには米国の核の傘に依存するべきではないという御意見もありますが、北朝鮮による核・ミサイル開発が進展している中で、非核三原則を堅持しながら国民の生命と平和な暮らしを守るためには、日米同盟と米国の抑止力の下で安全を確保していかなければなりません。



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