中国の長期海洋戦略

2010.09.16

尖閣諸島付近での領海侵犯とその後の中国の対応は、単なる中国の領土的野心の表れではない。

1982年に劉華清中国海軍提督は中国の将来の長期海洋戦略を策定した。

曰く「2010年までに第一列島線に防衛線を引き、その内側への米国海軍の侵入を抑止する。2020年までに複数の空母部隊を建設し、第二列島線の内側の制空権を支配する。2040年までに西太平洋とインド洋におけるアメリカ海軍の独占状態を阻止する。」

しかし、1996年の台湾海峡危機において、アメリカは空母2隻を台湾海峡に難なく送り込み、米中の軍事格差を見せつけた。

その後、中国は22年間連続で、国防費を二桁以上の成長率で伸ばし、国防予算は公表値で784億ドル、非公表分を推計すると1500億ドルの規模に成長した。そしてその間、長期海洋戦略に基づき、1991年までは存在しなかった新型潜水艦、新型駆逐艦・フリゲート艦、第4世代戦闘機を、2009年にはそれぞれ31隻、33隻、347機まで増やした。

そして、
2004年11月 中国原潜が国際法に違反し、潜航したまま宮古島周辺の日本領海を通過
2005年09月 中国の新型駆逐艦5隻がガス田付近を通行
2006年10月 中国新型潜水艦が米空母キティホークの直近で浮上
2008年10月 中国の新型駆逐艦が初めて津軽海峡を通過し、日本を周回
2008年11月 中国の新型駆逐艦4隻が、沖縄本島と宮古島の間を抜けて太平洋に進出
2008年12月 中国海洋調査船2隻が尖閣諸島周辺で領海侵犯
2009年03月 米音響観測船インペカブルが南シナ海で中国の漁船に妨害を受ける
2009年06月 中国の新型駆逐艦5隻が南。西諸島を抜けて太平洋に進出。沖ノ鳥島北方に達する
2010年03月 中国の新型駆逐艦6隻が沖縄本島と宮古島の間を抜けて太平洋に進出
2010年04月 新型駆逐艦および潜水艦合計10隻が沖縄本島と宮古島の間を抜けて太平洋に進出

かつて中国は、台湾の独立を阻止するために、米海軍の接近を拒否する能力を配備しようとしているといわれたが、今やその能力を上回りつつある。

中国は、南シナ海は中国の核心的利益(武力を行使してでも守らなければならないもの。台湾やチベットを指して使ってきた)であると発言をはじめ、フィリピンやベトナムとの西沙群島や南沙群島をめぐる領土問題は2か国間で解決すべきものと主張。

それに対して、オバマ政権のクリントン国務長官がアセアン地域フォーラムで、南シナ海は公共の空間であり、国際的な枠組みで問題解決することが必要だと発言。

中国は、南シナ海で、ベトナムやフィリピンなどとの領土をめぐる問題で、彼我の差を見せつけることにより、武力に訴えずに主張を通すことができるようになりつつあり、危機感を抱いたアセアン諸国はアメリカの軍事プレゼンスの維持、強化を望んでいる。

これまで西沙群島や南沙群島では、まず中国海軍による海洋観測が始まり、その後、「漁船」がその海域に進出、島に構造物が建造され、最後にそれを守るという名目で軍が上陸して実効支配ということが行われた。

尖閣諸島付近での動きがそれに似てきたのも現実だ。

おそらく中国は、日米間のごたごたと民主党政権の混迷の隙をついて、日本の対応を試している。

さらには南シナ海沿岸の東南アジア各国に対して、中国は、中国の核心的利益にかかわることならば、いざとなったら日本とさえも対立するんだぞというメッセージを送っているのかもしれない。

また、資源輸入国に転じた中国は、自らの石油や資源のためのシーレーンがアメリカの力によって維持されている状況に依存することは危険であると考え、自らのシーレーンを自らの海軍力で守ることができるようにしようと海軍力の増強に走り、米中の西太平洋やインド洋での力を均衡させようとしている。

その結果、中国は東シナ海、南シナ海、インド洋において、日本、韓国や台湾などのシーレーンで、その気になれば他国の船の交通を妨害することができるようになりつつある。

以前のブログにも書いたように、種子島から奄美大島、沖縄、宮古島、与那国島までの1400kmに2600の島、この地域に自衛隊員は2400人、F15が24機。

奄美大島に海自の分遣隊、沖縄に陸自の第15旅団2100人、海自第五航空群、空自南西航空混成団。

沖永良部島、久米島、宮古島に空自のレーダーサイトがあるが、最西端の宮古島のレーダーサイトでも日本の最西端の与那国島は見えない。地球は丸いので、宮古島のレーダーサイトからでは与那国島上空4500mより下、つまり島そのものは見えないのだそうだ。

北海道に駐屯する3万人の自衛官の一部を南西諸島に移していくということも考えられるが、自衛官は常に訓練ができなければ、部隊の練度が低下する。

だから在日米軍基地、とくに沖縄の基地は中国に対する抑止力として非常に今後も重要になる。グァムやテニアンでは遠すぎる。

海兵隊、空軍の拠点としての嘉手納基地、空母の母港としての横須賀は、日米同盟がこの地域のパワーバランスを守るための国際公共財であり続けるためには不可欠だ。

中国の軍拡の意図が不明確であることが、近隣諸国の疑念を増すことにつながり、日本以外の各国が国防費を増やし、アジアでの軍拡につながっている。

この10年間に、中国の国防費は約5倍になり、アメリカが2.5倍、韓国やインドがが2倍、オーストラリアが3倍に国防予算を増やす中で、日本の国防予算は横ばいを続けた。

さらに各国が兵器の共同開発を進めている中で、日本はそれにも参加してこなかった。

国防費をどうしていくのか、兵器の共同開発をどう進めていくのかなど防衛大綱の議論の中できちんと議論しなければならない問題は山積みだ。

そして今回の事件では、政府は毅然とした対応を、国民は冷静な反応をしなければならない。



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